第97話
「栄美ちゃん、私と久重先輩、全然そういう関係じゃないから!」
「え? でも先輩達の話聞いてたら、」
「本当に、仲良いだけだから」
絶対に誰にも言わないでね、と言うけれど、栄美ちゃんは不服そう。
「でもー…っていうか普通に気になります。ナギサって人と凄く仲良さそうだったのに」
「あれは…中学の頃からの友達だから、特別っていうか、」
“特別”と、自分で言った言葉にヒヤリと背筋に冷たいものが走る。栄美ちゃんは頬に人差し指を当て、(余計に会話を引っ掻き回さないようにする配慮なのか)先輩達には聞こえないよう小声で言う。
「なんていうか、勘なんですけど、ナギサって人のほうが友達っぽくなかったっていうか、そんな感じがするんです」
「え?」
「だって、男は好きでもない女にあんな絡み方しないですよ? 私、ナギサさんが先輩の頭叩くところから見てましたけど、絶対あれ四ツ橋先輩に嫉妬してたんですよ」
「はい?」
栄美ちゃんの推測に頭がついていかない。というか、ふんわりと愛想良い普段の喋り方にしては、あまりにも断定的な言い方。
「絡みに行ったのにすごく素っ気ない態度取ってみせるって変じゃないですか? 絶対光宗先輩のこと好きですよ、あの人」
「そんなはずは…ないんだけどね…」
「中学の恋が再燃したとかありますって!」
「ううん…凪砂くんに限ってそんなはずは…」
中学のときに恋愛絡みのややこしい話があったことは否定できないけれど。栄美ちゃんはぐっと拳を握って見せた。華奢だけど。
「私、そういうのだけは見る目あるんです! 絶対そうだと思います!」
「う、うん…でも別に私は、」
今更凪砂くんを好きだなんて、言えないから。
それこそ信義則違反だったりして、なんて、知ったばかりの法律の知識をネタにして自嘲気味に笑った。




