第93話
男の先輩2人が前にいるんだから、我ながら少しは可愛子ぶればいいのに…、なんて思ってしまうけど。そんな私を見てる永沢先輩が、キョトンとした顔をした。
「ミツって酒飲めたっけ?」
「いえ、あんまり飲めないです。だから乾杯の一杯だけにしようと」
「ペース気を付けんとそんだけで酔うやろ、お前」
「だから気を付けますってば!」
からかう久重先輩の言葉に笑って返しながら、受け取ったウーロン茶を栄美ちゃんのグラスに注ぐ。
「飲めるイメージはなかったけ…ミツってそんな弱いっけ?」
「弱い、ですね…最近ちょっと慣れたんですけど、結構グラス一杯でもきちゃいます」
「だよなぁ。新也、お前結構いける?」
「いけますね。ただ、サッカー部の後輩にめちゃくちゃ強いヤツいるんすけど、やっぱそういうヤツ見てると普通やなぁって思います」
ほら、凪砂とか、と名前を出されて、ビクッと心臓が跳ねる。栄美ちゃんが首を傾げた。
「ナギサ…って、もしかしてさっき光宗先輩と一緒に話してた人ですか? 背が高くて色が黒い…」
「え、あ、うん、そう、だけど…見てたのね、栄美ちゃん…」
1年生の誘導中に来た凪砂くん。許さない。
「先輩と親しそうだったので、思わず気になって見ちゃったんです~」
えへへ、と栄美ちゃんは笑うけど、どこまで見てたんだろう。頬をつねるところから怒るところまで、一部始終を聞いてたり、見てたり、したのだろうか。
「新也の後輩だろ? ミツ、なんで知り合い?」
「あ、えーっと、法学部で…あと中学の同級で…」
久重先輩が知ってる以上、隠すと変に思われるかも、と思って暴露する。へぇー、と頷いてみせる永沢先輩。そのとき、ぽんっと栄美ちゃんがその手を叩いた。
「そうだ! そのとき話してた、先輩の元カレさんの話聞きたいなと思って!」
──心なしか、空気が凍りついた。まさかそこまで聞いてたなんて、と私が思ったのもあるけど、どうして久重先輩と──永沢先輩まで。
「良かったら、また今度聞かせてください!」
栄美ちゃんもそれに気づいたらしく、慌ててその話題を終了させるような発言をする。ほっとして「そうだね」と返すと、丁度綿貫先輩が立ち上がった。
「えー、みなさん、まずは試験お疲れ様でした! 1年生のみなさんは──」
みんなの視線が一斉に綿貫先輩に向く。けれど、乾杯の音頭は前部長の真木先輩。そのための繋ぎの挨拶を聞いていると、栄美ちゃんがこそっと私に耳打ちした。
「先輩、すいません、なんか変なこと聞いちゃったみたいで…」
「いいよいいよ、気にしないで」
それに小さな声で返しながら、どうして永沢先輩まで、と首を捻る。久重先輩は──自意識過剰かもしれないけど──その理由に察しはつく。でも永沢先輩が何故。




