第90話
「マジ? じゃあ地元こっち?」
「んー、そうとも言うかな。中学まではこっちいたから、じいちゃん家あるし」
そうなんだ…、と、頭上の会話に頷いた。
「じゃあ通い?」
「いやー、下宿。俺もじいちゃん家に住む予定で後期にこっち受けたんだけどさ。意外と遠くて無理だったんだよな」
「そうなんだ」
「お前は? 通い?」
「いや、俺は地方から出てきた」
初対面の人独特の会話が繰り広げられる。その中で、私が知らない凪砂くんの情報が出てくる。大した話ではないんだけど、最近ふと思った疑問が解消された。
わいわいと私の上で盛り上がる男の子2人。四ツ橋くんも高校のときにサッカーをしてたとかで仲良くなっていく。中学のとき凪砂くんの試合を見に行ったことはあるけど、あんまりルール分からない。
会話についていけないし、サッカーの話してるなら何か変なこと言われる可能性もないし、なんて思ってたせいで上の空になる。自己紹介で何喋ろうかなー、と。
その時、むにっと頬がつねられた。
「お前、焼けたな。毎日日傘差してるくせに」
「仕方ないでしょ、季節なんだから。大体凪砂くんに言われたくないんだけど?」
特に表情も変えず無遠慮に私の頬をつねってきた凪砂くん。やめなさいとばかりにその手を掴むと、四ツ橋くんが驚いた顔をする。
「え…光宗って桐生と付き合ってんの?」
「はい?」
「あー違う違う。中学ん時のノリだよ」
私が顔を赤くする前に、凪砂くんが手を放して否定した。そこまで軽く、自然に否定されると、少し胸が痛む。
「へー、じゃあ中学で結構仲良かった?」
「あぁ、コイツ含めて4人でいっつもつるんでたし」
私と、桃花ちゃんと、凪砂くんと、ひっしー。その時を思い出すと、少し切なくなる。
元々、桃花ちゃんと凪砂くんが幼馴染で仲が良かった。凪砂くんとひっしーが仲良しで、桃花ちゃんと私が仲良くて、私がひっしーと仲良くなって、そうして私と凪砂くんが仲良くなった。
そう言えば、試験が終わったらひっしーに連絡してみようって思ってたっけ。
「男女4人? 恋愛沙汰起こりそうですねぇ」
「あぁ、コイツともう1人の男が付き合ってたわ」
──その言葉に、ギョッとして、俯いていた顔を上げた。




