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イーブン・イフ  作者: 裏柳 白青
5. Alter Ation
86/108

第86話

 のろのろと奥に下がると、靴を脱いで傘を置いて、凪砂くんは中に入ってきた。膝の下に手を入れて背中を支えて、カバンごと私を抱え上げる。


 あまりに軽々と持ち上げられて、何が起こったのかよく分からない。けれど、凪砂くんの身体の感触は落ち着いた。ゆらゆら揺れて、頭も余計気持ちがいい。


 寝室ではなくリビングに向かう凪砂くんに、首を傾げた。


「…ベッドじゃないの?」

「…汗でべたべたのまま寝たいのか」

「…そっか」


 そうだね、と答えて目を閉じた。リビングに入ると、ソファの上に乱暴に投げられた。断りもなく勝手にクーラーのスイッチを入れた音がして、ソファが沈んだせいで凪砂くん座り込むのが分かった。


 眠い、と思うのさえも億劫になるほど重くなってくる意識の中、頭の先に僅かに触れる凪砂くんに対して口を開いた。


「…ねぇ、学部飲みの日も、同じ…?」

「あの日のほうがお前は酷い。もろに寝てたからな」

「ふぅん…」

「つか、学習しろよ。襲われても知らねぇぞ、俺に」

「…凪砂くんに、かぁ…」


 閉じられた目蓋の裏に浮かぶのは、凪砂くんの顔だ。


『凪砂くん、ぎゅー』


 聞こえてきた自分の声に、少し驚きながらも、思い出したことに気付いた。私、確かに、ぎゅってしてって、頼んだんだ、と。


 そうだ。寝てたら、凪砂くんが引っ張ってくれて、家まで連れてきてくれて、家の中に入って、ベッドに運んでくれて。


『は? え、お前、何言ってんの?』


 そうだ、そうだ、凪砂くんも、すごく動揺してた。


『凪砂くん、好きー』


 あとは…なんだっけ、何を言って、何を言われたんだっけ。

 よく覚えてない…頭の下に滑り込んできた手と…。

 キス、したんだっけ…でも、エッチしちゃったんならしてるんだろうか…なんてことを考えて、口を開いた。


「…凪砂くんなら、いいかなぁ…」


 そして、意識は飛んで行った。





 ふと、意識を取り戻してみると、見慣れた天井が目に入った。


 クーラーもきいてて涼しい部屋の中、ごろんと横を向くと、テーブルの上にはコップが置いてある。中にはお水が入っていた。そばにはルーズリーフとペンが無造作に置いてあって、「鍵、ポストに入れた」と書いてあった。


 そっか…凪砂くん、帰ったんだ。


 時計を見ると、1時を回っていた。シャワー浴びてちゃんと寝よう…と、体を起こす。


 ──そして、はたと止まった。


 私、凪砂くんに、何て言ったっけ。


「あ、あれ…?」


 凪砂くんなら、いいか、って…なに…。

 思わず口元を手で覆った。あれ、は…凪砂くんなら、襲われてもいい、という…。


 どう、しよう。

 だらだらと冷や汗が流れる。しまった。


 凪砂くんを好きになってしまったと、気付かれたら、どうしよう。


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