表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イーブン・イフ  作者: 裏柳 白青
5. Alter Ation
83/108

第83話

 一拍の後に答えた私に何かを読み取ったのか、凪砂くんは「ふぅん」と相槌を打つ。


「お前さぁ、先輩が好きなんだろ?」

「…なんでそんなこと確認するのよ?」

「いや、俺と2人で飲んでていいのかなーと思って」

「家から引き摺りだしたくせに何言ってるの? しかも散々今まで私の家に入り浸ってたのは誰よ! 私の家に入ってるのも見られてるんだから!」

「この状況、見られたらどう言い訳すんの?」

「……凪砂くんの恋愛相談に乗ってました、的な」

「俺を巻き込むんじゃねぇよ。飲み会で質問攻めされたらどうしてくれるんだ」

「そっくりそのままお返しするわそのセリフ!」


 店長さんからサラダが出された。取皿2枚、お箸2膳。見上げると、40代後半に差し掛かる、ちょっと見た目は厳ついスキンヘッドの店長が笑った。


「本当、仲良いな、凪砂と深里ちゃんは。君らで付き合えばいいのに」


 今までも何度も、その言葉は言われた。常連客の中には私達がカップルだと思ってる人もいる。けれど、凪砂くんが好きだと分かってしまった今は、その言葉は全否定できない。思わず詰まった私に、凪砂くんがソルティ・ドッグを飲みながら私の側頭部を指で小突いた。


「大丈夫っす、コイツ片想いとは名ばかりの恋愛出来レース走ってるんで」


 ゆらっと、揺れた頭。頬が上気してきたことに気づき、バレないようにとカシオレを飲む。


「あちゃー、凪砂失恋かぁ」


 びくっと、心臓が跳ねる。


「なんで失恋さすんすか…おい、お前、あんま飲み過ぎんなよ」

「だからっ、このくらいなら平気なの!」

「凪砂、お持ち帰りすんなよ」

「しませんよ。送るだけ送っていきます」


 店長さんは手羽先を作るためにまた奥に引っ込んだ。凪砂くんは取皿とお箸を私の方に寄越しながら、胡乱な目で私を見た。


「本当に大丈夫か? 顔、赤くなってきたぞ」


 その手の甲が頬に触れた。少しカサついた感触に、心臓が更に跳びはねる。


「大、丈夫…」

「ま、そういうのは俺じゃなくて新也先輩の前でやることだな。俺の前でやっても仕方ねぇから」


 ──あぁ、もう、だめだ。熱い頬と目頭に、私は立ち上がる。


「ちょっとお手洗い」

「ん」


 お店の奥にある小奇麗なトイレに入って、鏡の前に立った。とろんとして少し潤んだ目と真っ赤な頬。はぁ、と思わず溜息をついてしまう。しまった、と。


 駄目だ。

 いまの私は、あんなセリフに寂しさを感じるほど、凪砂くんに気持ちが向いてしまった。

 久重先輩と、あんなに仲良かったのに。凪砂くんに言わせれば恋愛出来レースだったというのに。周りから見ても、それは同じだっただろうに。


 今更、久重先輩を好きじゃなくなりました、なんて、言えない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ