表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イーブン・イフ  作者: 裏柳 白青
5. Alter Ation
81/108

第81話


「お前の周りってさ。いつも、優しい男がいるな」

「え?」

「ひっしーとか。新也先輩とか」

「え、あー、うん、そうだね…」


 その溜息の意味は分からないけれど、凪砂くんはもう一度深いため息をついた。


「…なんでお前の1番は決まってるんだろう」

「え、なに?」


 その直後のセリフが聞き取れなくて聞き返したのに、凪砂くんは無反応だった。顔をしかめるけど、不意にこっちを向いた凪砂くんと目が合って、びくっと体が僅かに引く。


「…1年の頃からいるって分かってたら、送り迎えしてやったのに」


 ぬっと伸びてきた手に、いつかの夜を思い出してゾクッとする。でも外で何をされるもないかと思って──それでもやはり目を瞑ると、その温かく、骨ばった大きな手が頭上に載せられた。


「…お前も、大変だったんだな」


 びくっと、目蓋が震えた。どうしよう、泣きそうだ。


 再会したと思えば横暴だった凪砂くんが、そんな言葉をかけてくれるなんて思いもしなかった。じわりと浮かんだ水分のせいで、視界が歪んだ。思わず凪砂くんのほうを見れずに目を逸らす。


 私がそんな無礼な態度を取ったことに特に動じず、凪砂くんの大きな手が頭の上を動く。頭を撫でてもらうなんて──久しぶりだった。


『お前、小さいな』


 そう言って私の頭を撫でていた凪砂くんが、そこにいる気がした。あのときは恥ずかしさしかなかったけれど…あの時も、こんなに心地よかったんだろうか。驚くほどの安心感に、嬉しさや恥ずかしさより、体の奥でもっと別の感情が疼く。


「そーゆーの、言えばいいのに」

「だって…凪砂くんのこと、知らなかったし…急にこんな話されても、困るでしょ…」

「まぁ、困るっちゃ困るのかもしれねーけど。迷惑じゃねーし」

「…なにそれ」


 ぶっきらぼうなくせに優しい。それが凪砂くんの精一杯優しいキザな言葉なんだと分かるから、思わずくしゃりと顔が歪んだのが分かった。でも今、私の中に疼いている感情の正体を知られたくなくて、冗談交じりの溜息を漏らした。


「やだやだ。凪砂くんってば、暴君のごとく振る舞っておきながら急に優しくするなんて。女の子落とすテクニックのつもり?」

「そのつもりだけど?」

「…またそんな嘘ついて」

「まぁ、半分冗談」


 じゃあ半分本気ってことなの…とは、否定されるのが怖くて聞けなかった。私の気持ちも知らないで、そんなことばかり。


 …そっか、やっぱり、私は。


「次、新也先輩といつデートすんの?」

「決まってません。別に付き合ってるわけでもないのに」


 頭を撫でながら先輩とデートするのか、って、セリフと行動が不一致過ぎて。何より、いつまでも私の頭を撫でてるこの手の意味が分からない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ