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イーブン・イフ  作者: 裏柳 白青
1. Re Start
8/108

第8話

 そして、大学生になって、桐生くんに会ったあの日、言った。中学の時のことはもう気にしないでって。


 「分かってるよ」と、そんなこと気にしてなかったとでもいうように言われて、少し寂しかったけど、安心したんだ。


「…あぁ、知ってるよ」


 少し、寂しかったけど。


 久重先輩は、私のサークルの先輩だけど、同時にサッカー部だから桐生くんの先輩でもある。今3年で、彼女はいない。よくみんなに混ぜて遊びにつれて行ってくれる、優しい先輩。


 土下座をしている私には桐生くんの顔は見えないが、なんとなく空気は重かった。やはり、お互い共通の知り合いを私が好きなのに、|(中学の時は好きだったとはいえ)ただの友達と“そういう”関係になってしまったことは、気まずい。


「そんなに土下座決め込まなくても、別に脅そうってんじゃないし」

「で、ですよね!」

「まぁ、暫くネタにさせてもらうけど」


 明るい声にガバッと顔をあげたものの、面白そうな表情と声に肩を落とす。桐生くんは決して性格は悪くないのだが…。


「言っとくけど、悪いのは、お前」

「…はい」

「ベッドの上で首に手を回してきたの、お前」

「……はい」

「好きだから抱きしめて、って言ったの、お前」

「………はい」

「誘ってきたの、お前」

「…………はい」

「お前気を付けろよな。せめて俺以外とはそーならないように」

「分かってるよ! ていうか桐生くんとですらそうなりたくなかったよ!」


 付き合ってもないのに~と嘆く私に、桐生くんは冷ややかな目を向けた。


「お前の不注意だろ。男は狼って習わなかったか?」

「狼が何言ってんの!」

「でも、逆に酔ったら甘えるってことが分かったし? 新也(しんや)先輩にも酔ったふりして甘えてみれば?」

「──できるわけないでしょそんなこと!!」


 どんな下衆女だよ、とツッコむと、ふん、と桐生君は笑う。


「男は馬鹿だから。弱いぜ、そーゆーの」

「男は馬鹿だから、って…じゃー桐生君も女の子にそーゆーことされたら好きになっちゃうわけ?」


 末武さんとか美人だし、と付け加えると、妬いてんの?と冷ややかに笑われた。


「何で私が桐生くんに焼きもちやくの…意味わかんないじゃん」

「そーだな。今は新也先輩が好きだもんな」

「そーだよ」


 溜息と共に答え、はたと気づく。


「そうだっ、この話絶対に誰にも言わないでよ! 特に久重先輩とか!!」

「お前と俺がしちゃったって話?」

「ぎゃあああああああだからそれ言わないでよ!? ね!?」

「俺だって付き合ってもないヤツととか噂広まったら嫌だけどな」


 不名誉、なんて言われて、だったら手を出すなと返したくなる。


「…男って誘われたら誰でもいいんだ…」

「すげー不本意だな、その言い方。昨日の夜は可愛かったくせに」

「だからお願いだからそんなこと言わないでよ……」


 はぁ、と顔を手で覆う。今後、これをネタに脅される可能性、大。


「ま、とりあえず今後も晩飯頼むわ」

「………は?」


 しかし、次の台詞に顔を覆っていた手を下ろす。桐生くんは相変わらずニュースに目を奪われながらチャーハンを食べていた。


 何言ってんのコイツ。私がコイツの何だというの。


「……今後もって…」

「1人分より2人分のほうが楽だろ」


 それはそうだけどそこじゃなくて。


「何でうちで…」

「あ、部活ある日は多分いらねぇわ。部の連中と飯食いに行くし。まぁ随時連絡は入れる」


 だからそこじゃなくて。


「まさか…たかる気…?」


 ゴクリと唾をのむ。まさかそんな。ははは。


 私の凍りついた状態をどう思ったのか、桐生くんは不敵に笑った。


「いいよ、別に。俺は自分で飯作って食うよ? その労力のせいでうっかりお前との話、新也先輩にするかもしれねーけど」

「いやああああああ! っていうかそれ脅しじゃん!? 仮にも法学部生がそんなことしていいと思ってるの!?」

「うるさいやつだな。んなこたどうでもいいじゃん」

「とにかくっ何で私がそんなこと──」

「俺が飯作るのだるいって言ってんの。これ以上の理由、要る?」


 不敵な笑みを崩さないまま、桐生くんは偉そうにそう言った。その意図を理解した私はぐっと押し黙るしかない。


 関係を持ってしまった、そしてその責任が恐らく私にある以上──桐生くんに逆らうべきではない。


「分かった…、分かったよ…」


 ぐっと拳を握りしめ、項垂れた私に、桐生くんは満足げに頷いて「ごちそうさま」と言った。


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