第79話
本当は、私は何も関係なくて、バイト仲間の高校生を連れて行くつもりだったんだと、後から知った。
そのバイト仲間の高校生は──見た目からは想像できなかったけど──地元で有名な不良の1人で、その子と私を間違えてしまったらしかった。間違いだというのが割と早くに発覚したお蔭で、何もされずに済んだけど。
「大学からバイト行く日で…駅降りて、行く途中で…ね」
中学も高校も、不良だとかそういうものに関わりなく過ごしてきた。そんな中、軟禁されたのはまだ大学生になってばかりで、高校生気分で、相手もそんなに年が変わらない高校生の男の子たちで。元々男友達が多いほうというわけでもなくて、慣れてない男子達に囲まれるのは──怖かった。
「それでね…怖くなったの。男子が、みんな。普段話してた人ですら、ちょっと距離が開いてないと怖いっていうか。だから、当然、電車も怖くて…」
実家から通っていたけれど、通学にはギリギリの距離だった。こんなことになるんだったら最初から下宿しておけばよかった。そう思いながら、男女関係なく詰め込まれる電車の中にいた。それが、怖かった。
「その頃、ね。久重先輩に会ったの。でも、男の人みんな怖かったから、すごくおどおどしちゃって…伊勢先輩っているんだけど、伊勢先輩に、男怖い?って聞かれたの。それから、電車とか大変じゃないかって話になって…」
冗談半分で聞いてきた伊勢先輩に頷いた私を見て、久重先輩がその脇腹に思い切り肘を入れたのを覚えてる。デリケートな話なんじゃないかって心配してくれたんだと思う。
でも詳しい事情を話す気にはなれないし、新入生にそんなことを話されても困るだろうし、と思って。バイトの最寄駅で怖い事件があって、一時的に男の人が怖くて、と話した。そして、通学大変そうだね、と伊勢先輩が言って。
「じゃあ、新也送ってやれよ、って、伊勢先輩が冗談で言って。サークル入るんなら俺らの後輩じゃん、後輩には優しくしてやれよ、って。冗談だったのに、久重先輩が、いいよなんて言うから」
あんな軽い流れで、試験前なのに、知り合ったばかりの後輩女子のお見送りなんて。試験前でバイトの数は減らしてたから、週に2回だったし、実家の近くじゃなくて、ここから40分くらいの距離だったけど…、それでも、面倒には決まってる。それを、久重先輩は引き受けてくれた。
「伊勢先輩がさぁ、コイツ絶対女の子に手を出せない事情があるから心配しなくていいよ、って言って。悪いですって言ったんだけど、どうせ久重先輩は暇だからって。全然暇じゃないのにね、部活もやってて、勉強も忙しくて。夏休みは大学来ないから、実家から親に車で送ってもらってたんだけど、夏休みに入るまでは、ずっと久重先輩が送ってくれてたの」




