第77話
なんてことを、本人に言えるわけでもなく。手に掴むだけで飲んでいなかったカシオレを、そのタイミングで漸く口に運んだ。口の中に広がるアルコールの味に顔をしかめる。隣の凪砂くんは鼻で笑った。
「ただのジュースだろ」
「アルコールです、私にとっては」
「ま、飲み過ぎたら送ってやる」
「結構です」
「別に何もしねぇよ。玄関で放り投げてやる」
前科持ちのくせに、とぼやいた。凪砂くんは隣でレイククイーンを一口飲んで、カクテルグラスを置いた。頬杖をついて、呆れた顔で私を見て、一言。
「お前、新也先輩にさっさと告白すれば?」
──そんなの、できたらしてる。
凪砂くんがいなければ。凪砂くんとあんなことになってなければ。以来一緒にいる日々を先輩に見られていなければ。
最初は、ただそれだけの理由だったのに。凪砂くんが飽きれば終わる話だったのに。傍にいられたせいで、気付いてしまった。
私はまだ、初恋を引き摺ってる。
それなのに久重先輩に告白すればいいとか、なんで付き合ってないんだとか言われて。でも私が久重先輩を好きだと公言していたのは間違いないし、本当に好きだったし。なんだか説明のつかないよく分からない感情が渦巻いた。
「…言ってること違うじゃない。先月は私が不利だのなんだの言ってたくせに。一カ月かけて改心したのかしら」
「あー、うん、そうかもね。一カ月かけて改心しました」
馬鹿丁寧な口調で凪砂くんは答えた。
「この間ひっしーと話してたんだけどさ、」
「あ、ひっしーの連絡先教えてよ。久しぶりに話したいし」
「あぁ、はいはい…アイツに言われたんだよなー。お前とどうしてんの、って」
「…なんでそんな話になるのよ」
ひっしーのLIMEの連絡先を送ってくれようとしてるのか、凪砂くんはスマホをテーブルに置いて指先を動かしている。ひっしーには恋愛相談をしてたから、凪砂くんと私が同じ大学にいると知って何も言ってこないわけがない…ってほどでもないけれど。むしろ、気遣い屋のひっしーが不用意に凪砂くんに私のことを言うはずがないのだけれど…。
「まぁ、俺とひっしーの共通の友達ってお前くらいじゃん」
「桃花ちゃんは…」
「──だから、桃花の話はすんなって言ってんだろ」
強い口調と鋭い目にぐっと押し黙る。凪砂くんはカクテルグラスを空にして、メニューを私に放った。
「お前、晩飯は?」
「まだ、だけど」
「食えば」
「おごり?」
「なんでだよ。…あぁ、いや、奢ってやってもいいけど」
「けど?」
サラリと流されたかと思えば──凪砂くんはにやっと笑った。
「また晩飯作れよ」




