第76話
っていうかなんでこんなに根掘り葉掘り聞きたがるのかしら、と、とりあえずドリンクメニューを見ながら返事をする。
「何も」
「完全に出来レース走ってるくせに、何やってんの?」
「その出来レースに誰かさんが割り込んできたからでしょ!」
馬鹿にするような言い方に、反射的にイライラした声で返した。水族館での告白まがいがあってから、今になって振り返れば、出来レースと言っても、大袈裟じゃなかったんだ。
「すいません、カシオレください」
「飲むの?」
「このくらいなら飲めるし」
「そうじゃなくて。また俺にお持ち帰りされても知らねーぞって言ってんの」
「さすがの私もカシオレでお持ち帰りはされません!」
肘をついて、カクテルグラスに口をつける凪砂くん。
「何飲んでるの、今日は」
「レイククイーン。飲んだらお持ち帰りされるって覚えとけ」
要はそこそこ度数のあるお酒ってことね…。
「お前、何で酒飲めないの? 飲めそうなのに」
「そうなのよねー…家族はみんな飲めるのに」
突然変異よねー、と言いながら出てきたカシオレに手を伸ばす。
「でもいいの、別にお酒が好きなわけじゃないし」
「まぁ多少弱い方が可愛げあるよな。ハニートラップかけらんねぇけど」
「なにそれ、どういう意味?」
「よくあるじゃん。酔っちゃった~って酔ったフリした女に男が騙される場面」
心配しなくてもお前にはできない、と言われて、カチンとくる。呼び出したくせに、さっきからなんだか当たりが強い。
「…ねぇ、機嫌悪いの?」
「お前が5分で来なかったから」
「絶対そうじゃないでしょ…っていうかその程度、根に持たないでよ…」
なんだろう…ほとんど1カ月ぶりに話したけど、そんな感じがしない。…あの言葉を、許したわけではないけれど。
「お前、試験勉強進んでんの?」
「まぁ、ぼちぼち」
「試験勉強口実に新也先輩に近付けるだろ。そのくらい上手くやれよ」
「…さっきからなんなの? 私を応援してるつもりなの、その嫌味交じりのセリフで」
真意が読み取れない凪砂くんに、顔をしかめる。凪砂くんの目はちらっと私を見たけど、すぐに逸らされた。
「別に。お前と新也先輩見てんの、馬鹿馬鹿しいなと思って」
「…どういう意味よ」
「だって、どう考えてもおかしいだろ、現時点で付き合ってないとか」
くっと、凪砂くんは口角を吊り上げた。
「俺が新也先輩の立場だったら、絶対いけるって確信してるね。新也先輩があんなに構ってるもんだとは思ってなかった」
「…」
「どー見てもその気じゃん。お前だって、告白されたら即ok出してるだろ」
「…まぁ、」
「それをズルズル引っ張って、いまになって漸くデートしたかと思えば、お前が煮え切らない態度取ってるし」
誰のせいよ。そう言いたかったけれど、言えなかった。凪砂くんとの関係を断ち切れないことだけじゃない、凪砂くんへの初恋を断ち切ってないことが、煮え切らない態度の理由だから。




