第73話
試験が明けたら、久重先輩と何があったかだけじゃなくて、凪砂くんと何があったかも話さないといけないかもしれない。…それが、どこまで話すことになるか、分からないけれど。
6時前、1年生5人が帰って、私達も帰る準備をする。これから暫くは勉強会がないし、試験が終わったらすぐに試験打ち上げと新歓がある。私達が取り仕切るわけではないのだけれど、一応役割はある。誰かに迷惑がかかってしまう分、上手くやれるかなぁ、と試験よりも心配。
「ミツー、りっちゃん、來未ちゃん。俺ら晩飯食いに行くけど、行かね?」
伊勢先輩に呼ばれて顔を上げてみれば、多分久重先輩と宏林先輩と自家先輩がいるんだと思う。試験前って言ってもまだそんなに切羽詰まってないし…、と思案していたところ、りっちゃんが残念そうな表情になるのが見えた。
「すいません、食材買い込んじゃったんで、まだ試験明けにご一緒させてください」
「そーかそーか。ミツと來未ちゃんは?」
どうする?と伊勢先輩が首を傾げた。けれど、もし私と來未ちゃんの2人しかいなかったら、久重先輩と同じテーブルでご飯を食べることになるかもしれないし。
「すいません、私も今日は帰ります」
「同じくです」
「あららー、フラれちった。おい高崎、お前ら来る?」
「なんで女子の次に声掛けるんっすか!」
「そりゃーお前、可愛い女の子に囲まれる方が嬉しいだろ」
帰り支度をしていた他の2年生に声をかけ、伊勢先輩は冗談交じりにそんなことを言う。返事をした高崎くんと、高崎くんといつも一緒にいる数人がわらわらと先輩方のほうへ向かった。私達は揃って帰ることにしたし、とその横を通って講義室を出て行く。
「お疲れ様でしたー」
「お先に失礼します」
「おつかれー」
「また試験明けにねー」
久重先輩の表情が見えないように、コソッとりっちゃんの陰に隠れながら。
屋根がなくなったところから3人で傘を差して歩きだし、雨音に邪魔されながら話す。
「ね、やっぱさ。試験明けまで待てないんだけど」
「久重先輩の話?」
「そりゃそーでしょ」
「うーん…でも、話すと長くなっちゃうっていうか…」
久重先輩を好きだったはずなのに──多分、いまは、以前ほど好きじゃない。ううん、それだけならまだいいけれど。
それに、久重先輩が、私と凪砂くんに何かあるって気付いてないはずがない。




