第72話
「栄美ちゃんたちは大学になってからの友達?」
「いえ~、高校から同じなんです」
一応地元なんです、と栄美ちゃんが言って、「ね!」と2人に笑いかける。あまり喋ってなかった2人も、栄美ちゃんに話を振られると頷いた。
「はい。私と栄美は中学も一緒なんです」
「そうなんだ! すごいねー、中学から大学まで一緒なんて…」
「あ、でも私は後期なので…本当は大学は別になる予定だったんですよ。朋子の力に吸い寄せられちゃって~」
「わたしのせいみたいな言い方やめてよー」
朋子ちゃんと栄美ちゃんはそんな冗談を言えるくらいだから、本当に仲が良いみたい。へぇ、と頷いたところで、りっちゃんも口を開く。
「でも同じ高校から3人同じ学部って、すごいね。しかもみんな仲良しで」
「そうだね、あんまり聞かない…」
「めっちゃ仲良かったんで、同じ大学の同じ学部行きたかったんですよ」
「栄美もだから後期はここにしたんだよね」
そっか、と、頷いた。
そう言えば、凪砂くんって、前期なのかな、後期なのかな。凪砂くんの転校先──いまの実家と、ここだと随分離れてるし。実家の方の大学に行ってもよさそうなのに。前期は実家の方にある大学で、後期は懐かしいからこっちを受けた、とか──。
…そんなまさかね。と、思わず目を伏せた。凪砂くんがそんな理由で大学受験するわけないし。
…凪砂くんと、ひっしーは、ずっと連絡を取ってたみたいだけど。ひっしーに聞けば知ってるのかな。ひっしーの連絡先は凪砂くんに聞かないと分からないけど、凪砂くんとはずっと話してないし。っていうか、今後の私、凪砂くんと話すんだろうか。
あんなこと言っちゃって。凪砂くんのLIMEはブロックして。何か連絡が来てたかもしれないけど、知らないし。
…どうしよう。凪砂くんのことを頭から追い出すためと思ってしたことが、大変な間違いだったのかもしれない。
思わずスマホを取り出して、LIMEを開いた。凪砂くんとのトークは何度もスクロールしないと出てこないくらい下がってて、見つけて、ブロックを解除する。何が変わるわけでもないのに、どこかほっとした。
「ミツ? どしたの、急に」
「あ、いや、なんでもない!」
私が急に黙り込んでも栄美ちゃん達と久重先輩たちの話は弾んでいた。りっちゃんに小突かれて我に返り、スマホをポケットに入れた。りっちゃんは「ふぅん…」と納得できなさそうな表情をしていて、來未ちゃんが口を開く。
「桐生くん、どうかしたの?」
「え」
その名前に、声が裏返る。
「…ま、まさか、來未ちゃん、いま見てた…?」
「ごめん、見えちゃった。ミツ、背低いから」
來未ちゃんと私の身長差はデフォルトで10cm近くある。
「あぁ、喧嘩したんだっけ? 謝られでもしたの?」
「ううん、そういうわけじゃ…」
ただの喧嘩ならいいのに。どっちが謝るべきなのか分からないし、そもそもどちらかが謝るべきことなのかも分からない。




