第71話
久しぶりに久重先輩と話して緩んでた表情が凍りついたのが、自分で分かった。その言葉は、いまは、言われたくなかった。
久重先輩もどんな表情をしてるのか分からない。けれど、1年生の前だからと、慌てて表情を取り繕う。
「付き合ってないよ! うちのサークルの先輩後輩はみんなこんな感じなの!」
「そうなんですかー! 先輩後輩が仲良いサークルって憧れます…私、高校生のときは先輩が怖くって」
「何部だったの?」
「テニス部です! ユニフォームの可愛さに憧れて入ったんですけど、私って運動音痴だから、練習すっごい辛かったんですよー」
えへへ、と栄美ちゃんは笑う。笑うと一層可愛い…こんな美少女いるんだ。
「私も運動音痴なんだよ。だから中学も高校も帰宅部と文化部で…」
「そういやミツ、ビーズのサークルはどうなん?」
「試験前なので今週は行かない予定ですけど…結構色々作ってますよ」
指輪とか動物のキーホルダーとか、と指折り数える。栄美ちゃんは顔を輝かせた。
「先輩、ビーズアクセサリー作ってらっしゃるんですか?」
「うん、サークルがあるから、一応。材料も一括で買えるからお得なんだよ。って言っても、私はあんまり顔出してないから沢山作ってないけど…」
「すごい! 私、手先不器用なんで、そういうのすごく憧れます!」
今度ぜひ見せてください!と顔を輝かせる。美少女で、素直で可愛い。見てるこっちが癒されちゃう、と思わずその可愛い顔を見つめてしまった。久重先輩がそんな私を見てまた苦笑する。
「ミツ、ほんまに可愛いの好きやなぁ」
すると、伊勢先輩が肩を竦める。
「ミツが小動物全般好きって知ってますアピール、やめてくれます?」
「ちゃうやん! お前はなんでそんな見方すんねん!」
アホか、と伊勢先輩とじゃれる久重先輩。その様子を眺めていると、栄美ちゃんがくすくすとまた笑った。
「本当、仲良しですよね。光宗先輩より久重先輩のほうが上ってことは、光宗先輩たちが2年生ですか?」
「うん、そうだよ」
「たった1年なのにすごく仲良いですね~」
新也とミツが特にな、と伊勢先輩が付け加えると、久重先輩がその脇腹に思いっきり肘鉄を食らわせた。伊勢先輩が「うっ」と小さな呻き声を上げるけど、私が久重先輩でもやってたと思う。栄美ちゃんたちに突っ込まれないうちに話題を振らなければ。




