第69話
「アイツ、1年のときに部活のマネのこと振ったんだけどさぁ。なんか面倒なマネで」
「面倒…?」
「『私のことフッて他の女の子と付き合うの?』って」
甲高い声を出してくれた自家先輩にりっちゃんが吹き出す。けれど、冷静な來未ちゃんはヘンなものでも見るような目をした。
「元カノだったんですか?」
「いや、違う違う。普通に告白されて、フッたの」
「セリフおかしくないですか…?」
「んー、なんだろう、ヤンデレってああいう女子言うの?」
ちょっと違う気はしたけれど、詳しい話は知らないし、ヤンデレの定義も私にはよく分からなくて何も言えなかった。
「同じ部活のマネだし、久重もあの性格だから邪険にできなかったみたいでさ。はいはいって言ってるうちに、マネの存在を知った女子は手を出さなくなった」
「よく分からないんですが…」
「最初は久重が別のマネと喋るだけで『私が久重くん好きだって知ってるのに配慮とかできないのかな?』って」
「それ…何様なんですか…」
また自家先輩は甲高い声で真似をしてみせる。りっちゃんは今度は笑わず、寧ろひきつった顔をした。でも私の顔も多分同じようになってると思う。
「さぁ。最初はみんな笑ってたんだけどさぁ、だんだん久重もげんなりしてきたのが目に見えてたから」
「みなさん知ってるんですか?」
「伊勢が言いふらして」
伊勢先輩…。
「アイツも今はそのマネの上手いあしらい方覚えたみたいだし、半分は笑い話だけどな」
「なんだか遊んでるみたいですね、久重先輩」
「そんなこと言ってやるなよ」
ケタケタと自家先輩は笑った。もしかして、凪砂くんが言ってた“春香さん”のことかな。元カノでも何でもないとか、すぐに嫉妬するとか、そんな話してたし。
その話だったんだ、と今更納得する。
「だから久重は彼女できないんだよ。2年のお前らには秘密にしてたんだなー。ミツと仲良いからバラされたくなかったんだろうなぁ」
「ただの仲良い後輩ですよ」
傍から見てそんなに仲良かったんだ、と、思う。だとしたら、今の久重先輩と私って、かなりぎくしゃくして見えるんだろうな。




