第66話
久重先輩が座る机の後ろの机についてる伊勢先輩。私が座れるように一つ隣の席に移ってくれたから、隣に座る。りっちゃんと來未ちゃんは「じゃあ久重先輩教えてくださいよー」と言いながら久重先輩の前で教科書を取り出し始める。私もカバンを膝の上に載せて中から基本書を取り出す。
「憲法の、」
「俺も憲法嫌いなんだよねー…」
はは、と伊勢先輩は頬杖をついて視線を泳がせる。構わず気になった所を開く。
「違憲審査基準なんですけど…」
「うん」
「何にどう使えばいいのか分からなくて…」
「何にどう、ねぇ。それは考えれば分かるよ」
考えて分からないから聞いてるんですけど…と顔がひきつる。それを見た伊勢先輩は笑った。
「ごめんごめん。教えてあげるから。書いたほうが分かりやすいから」
ルーズリーフとボールペンを引き寄せて、伊勢先輩が表を書き始める。それをじっと見て、久重先輩が視界の隅に入る程度になるように、意識する。
そのとき、講義室の前方にある扉が開いた。
思わず視線を向けた先には、恐る恐る様子を伺うように中に入ってきた、知らない男子2人と、女子が3人。その雰囲気を見て、1年生だとみんな気付いた。すかさず副部長の宏林先輩が扉の方へ向かう。
「1年生? どうぞどうぞ、入って~」
男子2人は、どちらもまだ大学生になったばっかりなのかなーといった雰囲気で、宏林先輩の言葉におどおどと頷いている。
けれど、後ろの女の子3人は堂々としてて、服装も女の子らしく、且つ自分の雰囲気に合う格好で決めていた。絶対浪人だ、と來未ちゃんが呟いて、その背中をりっちゃんが小突くのが目に入る。
特に3人の中でも1人の女の子が、とびっきり可愛かった。一言で言って、美少女だった。他の2人と違って黒髪だったけど、ストレートでセミロングで、艶のある黒髪。少し潤んでるかのように見えるくりっとした黒目、少し自信なさげに開いたピンク色の唇が美白の肌に際立つ。
「ん、どうした、ミツ。かっこいい子でもいた?」
「あの子…すっごく可愛くないですか…!?」
「え? あー、マジだ! すっげー美少女! うちの学年にもあのレベル欲しい!」
思わずそう言ってしまった伊勢先輩の声が聞こえてたみたいで、宏林先輩がキッとこちら側を睨んだ。伊勢先輩は「冗談冗談」と慌てて手を横に振った。
宏林先輩は1年生を席に座らせる。
「…伊勢先輩、1年生に教えに行った方が良くないですか? 一応4年に手が空いてる先輩いますから、私そっちに行きますし」
「そうだなぁ…じゃあ悪いけどミツ、別のヤツか4年に聞いといて。おい新也、1年生諸君の相手しに行くぞ」
伊勢先輩は久重先輩の肩を叩き、言われた久重先輩が無言で立ち上がる。なんだか機嫌悪そう…と、私とりっちゃん達は顔を見合わせた。




