第63話
凪砂くんとも、もうずっと連絡すら取ってない。…正確には、LIMEはブロックしてしまった。もし何か大事な用事があればメールしてくるだろうし…なんて、思ったけれど。あんまり感じ悪いかな、とも思いつつ…。
『俺、中学のとき、お前のこと好きだったよ』
あの言葉を思い出すのが、悔しくて、辛くて、哀しくて。自分の過去の告白を、今になって後悔することになるなんて思いもしなかった。
「ミツ? 言われたこと教えてくれたら判断してあげるわよ」
「あげるわよ、って…ううん、でも、ちょっと、微妙だから…また何かそれっぽい進展あれば報告します!」
「進展って言えば、ミツ、桐生くんと喧嘩でもしたの?」
わざとらしく敬礼の姿勢をとった私に更に突っ込んでくる來未ちゃん。それはそうよね、今まで授業前はちょくちょく話してたのに、今は全然…。
「…まぁ…そんな感じなんだけどね、」
「そうなんだ。実は最近私彼氏できてね、」
「うん。……え?」
急に話題変わった?と首を傾げたもののごく普通に相槌を打って──、そのセリフに目を丸くしてしまう。りっちゃんも勢いよく隣に座る來未ちゃんに首ごと視線を向けた。
「ちょっ、初耳なんだけど! なにそれどこの誰!?」
「サッカー部の茶樹くん。2年だけど、工学部だから知らないかな」
「知らない…でもサッカー部ってことは、桐生くんの友達じゃん」
ぴんときた、とばかりに私を指差すりっちゃん。來未ちゃんも頷く。
「うん、桐生くんと仲良しなんだって」
「嘘…」
ひくっと頬が引きつった。こんな形で、凪砂くんの交友関係と私達のグループに繋がりができるなんて。
「桐生くんと私の友達が仲良しなんだって話したら、ミツのことって分かったみたいだから」
「え? ちょ、ちょっと待って? どうして?」
「桐生くんって、部活のマネージャー以外の女子とは喋らないんだって。だからキャンパスでミツと歩いてるのが珍しくて、部内でも有名な話になって、」
「そんなに目立つの?」
というか、私、そんなに凪砂くんと一緒に歩いてた?
「正確には法学部にもう1人いるサッカー部の…えっと、山崎くんだっけ? が、授業前に話してるミツと桐生くんを見て部活で話を広めた、みたいな」
山崎くん…フルネームまでは分からないけれど、顔はぼんやりとした記憶がある。茶髪でチャラくて、凪砂くんがいつもつるんでるグループとは別のグループにいるから、サッカー部とは知らなかった。




