第62話
試験前は普段の勉強会が休みになる。2週間前の火曜日が上回生に質問できる時間になって、それから試験終わりまでは休み。4年生になると期末試験がないから、2、3年には4年生が教えてくれる。そして、質問がないとか終わった2、3年は見学に来る新入生に勉強を教える。
去年のことはあんまり覚えてないけど、どうやら先輩達の話を聞く限り、私達は人数が多かったから結構大変だったらしい。手が空く2,3年生はいなかったとか。そう言った宏林先輩に、特に過剰反応はしなかったけれど──久重先輩と話さなくて済むと、内心すごくホッとした。
水族館に行った日以来なんとなく気まずくて、勉強会終わりも避けるように別の先輩と話していた。勉強会の担当も回ってこない内に無事試験2週間前に突入した。
そんな私の胸の内を察するように、久重先輩も話しかけてこない。
それを見ていたりっちゃんと來未ちゃんが訝しげに首を捻った。
「何かあったの?」
今日の勉強会が試験勉強になる、という話になって、そう尋ねられたお昼時。ついにその質問が、と食べていたご飯を喉に詰まらせた。
そんな私にりっちゃんは呆れたような表情に変わる。
「だってどう見ても変じゃん。あんなにべたべたしてたのに」
「べたべた…」
「久重先輩もミツに話しかけなくなったよね」
何かあったとしか思えないよね、と2人は口を揃えて言った。
水族館に一緒に行ったことは2人に話してなかった。その週末明けの月曜日は「合コンどうだった?」という興味津々なりっちゃんを躱すのに精いっぱいで。
それに、気まずくなった原因が凪砂くんだというのが、何より言いづらい。何と言って説明すればいいのか分からない。
「いや…その…」
「告白された?」
「まだされてない!」
「“まだ”?」
ほぅ、とりっちゃんが楽しげに口元を歪めて見せる。何か確証の持てる事実でもあったの、とでも言いたげ。というか、今にもそんな台詞が出てきそうな唇を見て、逃げられないのは分かる。
「…その…なぎ…桐生くんとその友達と、飲み会やったって話、あったじゃない?」
「あー、あったね、そんなこと」
「あの次の日に先輩と水族館行って…」
「え?」
2人が目を点にした。
「なにそれ、初耳なんだけど」
「なんで教えてくれなかったの…」
「2人が合コンはどうだったかって質問攻めにするから…言い出すタイミングも失って」
「まぁあのときは久重先輩差し置いて合コン行くのが気になったからさ。で、どうだったの? 実質告白、みたいなことされたの?」
「うーん…」
実質告白…だと、思うのだけれど。楽しそうに目を煌めかせるりっちゃんに見透かされないように視線を彷徨わせる。その説明のためには、凪砂くんの説明が必要なのよね…。




