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イーブン・イフ  作者: 裏柳 白青
4. Re Strain
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第61話

 カラン、とお皿の上に置かれたスプーンが音を立てた。凪砂くんは立ち上がり、ソファの傍に置いてあるカバンを手に持って立ち上がる。


「ごちそーさまでした」


 じっと私を見下ろしてる気配がする。けれど、顔を見るともっと泣きたくなりそうだったから、見なかった。


「…今日も美味かったよ」


 普段なら、その言葉が、嬉しかったのに。


 いま、凪砂くんと付き合えてたら、その言葉が嬉しいのに。そんなことを考えてる自分が、嫌だ。


「…本当だから」

「…なにが、」

「俺、中学のとき、お前のこと好きだったから」


 だったら、どうしてあんな台詞を付け加えたの。


「もういい加減にして、」

「本当。だけど、お前の告白にムカついたから、嘘ついた」


 そんなことを、今更言われても。


「だから、あの時、あんな言い方したのは後悔してる。ごめん」


 ぽんっ、と。軽く、その手が、頭を撫でていった。


「じゃーな」


 じっと、ソファの上で俯いて動かない私に構わず、出て行った音がした。ぱたんと閉まったリビングの扉に次いで、外の雨音がした。


 あの時の告白の返事が嘘だったんなら。だったら、今は?

 そう、聞きたかったけど。そんな勇気なかった。


 パタン、と音がして、雨音が聞こえなくなった。凪砂くんが、出て行った。


「…凪砂くん…」


 知りたくなかった。


 確かに、間違いなく、久重先輩が、好きだったのに。


 凪砂くんが無遠慮に掘り返した過去の感情は、深くに沈んでいただけで、欠片も色褪せてなかったんだ。




『凪砂くん、ずっと、好きでした』


 あの時の告白を忘れたことなんてない。意を決したものの恥ずかしくて、上着のボタンを掴んで、留めたり外したりを繰り返して、凪砂くんに『なんだよ』って笑われて。そして、漸く言えた、あの言葉。


 そして、続けた、セリフは。


『だから、フッてください』


 あの時の告白を、間違えていなければ。


『心配しなくても、俺はお前をそういうふうに見たことないから。言われなくても、フるし』


 あの時、好きだという感情だけを、素直に伝えておけば、こんなことにはならなかったのだろうか。


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