第6話
その後、学部が同じ以上専門科目が被り、同じ授業では後ろの席に座られ、嘗てと同じように仲良くなり、今に至る。
しかし、仲良くなったからと言って、“そんな仲”ではない。
それなのになぜ“あんなことに”なったのか──本当に10時過ぎに私の家にやって来て、開口一番「飯、何?」と言い、桐生くんはテーブルについて私がご飯を出すのを待っている。
「…あのさ、桐生くん…」
「凪砂くんでいい、光宗深里」
「だからフルネームで呼ばないでよ! 変に思われるでしょ!」
「説明しろよ、昔フラれた、って」
「本人のくせにそんなこと言わないでよ最っ低!!」
クールな桐生くんは「知ったこっちゃない」とばかりにニュースを見てる。
中学が同じだった・以上のことをみんなには言ってないので、そんな仲良しだと気付かれて告白してフラれたまでばれないように、私は彼のことを“桐生くん”と呼ぶことにしてる。
桐生くんはと言えば、基本的に「おい」としか言われない。
催促されて、予め準備しておいた野菜をいためた。冷めると美味しくないからって自分のと別に炒めてる私、優しい。
そんなことを思いながら、野菜炒めとご飯を机の上に置く。ついでに昨日のお味噌汁も温め直した。桐生くんは「いただきます」と言って箸をつけ、「美味い」と呟き、それに私が一瞬頬を染めた瞬間、私を見た。
「茶」
「………」
台無し。しかも何でさも当然のように言う。
いつものことだし、立場が立場なだけに何も言えずに冷蔵庫からお茶を取り出す。桐生くんと再会して半年、いつの間にかほぼ桐生くん専用のマグカップが出来上がり、それに入れて。
「はい」
「ん」
出されたお茶を飲み、桐生くんはチャーハンを口に運ぶ。私はその隣でソファに座ってる。桐生くんの視線はニュース。
「……ねぇ」
「…」
「ねぇ!」
ニュースを見てた桐生くんは、一度無視した後、二度目の私の声に面倒そうに振り向いた。
「何だよ」
「何だよじゃないよ! ねぇ、お願いだから、昨日の事教えてよ!」
「頼み方」
「……お、教えてください桐生くん…昨日、私、何かしましたか」
あっさり折れた私に、何だ面白くないなとでも言いたげな顔をし、桐生くんはお箸を置いた。頬杖をつく。
「俺の酒間違えて飲んだろ」
「…うん。そこまで覚えてる」
「は? そこまで?」
「えっうん」
「飲み会で俺に抱き着いた時点で既に記憶なしかよ」
「嘘!?」
「嘘」
真顔で言う桐生君に飛び上がると、桐生君はまた顔を背けて肩を震わせた。
「くそっ…単純…!」
「ちょっと凪砂くん!」
からかわないでよ、と顔を赤くした私に、桐生くんは少し笑った。
「そうやって、凪砂くんって呼べばいいだろ」
「あ…間違えた。桐生くん」
「…」
「そ、それで続きは…?」
「…1人で横になってた。ラストオーダー後だったしな」
その言葉に、ほっと胸をなでおろす。寝てただけなら、みんなの前で醜態をさらさずに済んだらしい。
しかし、問題はその後。私はその後何をしたのだろう。桐生くんを急かすように「それで?」と言うと、桐生くんは少し口角を上げた。
「あの日、渋谷さんいなかったな」
「…そうですね」
來未ちゃんはサークルがあって来なかった。何となく桐生くんの次の言葉に予想がつく。
來未ちゃんはお酒を飲まないし、飲んだとしてもグラス一杯程度。流石にそれだけでは酔わないし。だから私が酔った時には(というか飲み過ぎた時には)來未ちゃんが送ってくれる。私の下宿が來未ちゃんの下宿までの通り道だから。
だが、その送ってくれる來未ちゃんがいなかったということは、私の下宿を知る桐生くんが送ってくれたということなのではないかと。
その思考を表情から読み取ったのか、桐生くんは頷いた。
「あぁ、その通りだ。俺が送ってやった」
「…ドウモアリガトウゴザイマシタ」
「いえいえ? 流石に店の外で看板に寄りかかって寝てたら送ってやろうって気になりますよ?」
「…ご迷惑を…」
「で、次はお前が玄関で寝るから、ベッドまで運んでやった。以上」
「いや…だからね…?」
気になるのはその後よ!