表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イーブン・イフ  作者: 裏柳 白青
4. Re Strain
59/108

第59話

「…き、す?」

「キス」

「…え、いや、ちょっと…それは、ちょっと! 無理に決まってるでしょ!?」


 聞き間違いじゃなかったと気付いて、思わず声が裏返る。慌ててソファの隅に寄って距離をとった私を、凪砂くんは鼻で笑った。


「あの夜は自分からねだったくせに」

「だっ、だからあれは意識なくてっ…っていうかそれ言わないで!」

「してくれないなら、出て行かない」

「付き合ってもないのにできないでしょっ」

「あの夜は──」

「だからやめてよ!!」


 何度も何度も繰り返す凪砂くんの口を手で塞いだ。顔が熱いから、真っ赤になってるのは自分でも分かる。そんな私を見下ろす凪砂くんの目は細くなって、強い力で私の手を引き剥がす。その口元は楽しそうに弧を描いていた。


「まぁ、俺も優しいよな? お前女だし小さいし、いつでも襲えるのに」

「お、襲わないでよ…?」

「強姦罪は重いからなぁ」


 ぞくっと体の奥が震える。昨日の夜と同じだ。

 不意に掴まれていた手が引っ張られて、凪砂くんの胸に飛び込む形になった。驚く間もなく抱きしめられて、心臓が飛び上がる。


「なっ…」


 温かい。力が強い。体が大きい。


「凪砂くんっ」

「言おうと思ってたけど。卒業式のあれ、嘘だから」

「あ、あれって…?」


 イヤというほど脳裏に焼き付いてる卒業式の記憶。普段なら思い出したくなくても思い出せるのに、今は状況が状況なだけに、頭が真っ白だった。


「お前のこと、そういうふうに見たことないってやつ。嘘だから」


 ──え。


 真っ白だった頭が、その言葉でいっぱいになる。


「俺、言ったよな。お前のこと、そういうふうに見たことないから、って。あれ、嘘」

「嘘…」


 待って、待って。


 だって、それは、私の告白に対する、凪砂くんの返事。全てを言いきった私に対する、凪砂くんの返事。


 私のことを恋愛対象として見たことがないというあの返事が、嘘?


「そ、れじゃ…」


 じゃあ、あのとき両想いだったの?


 なに、それ?


「俺、お前のこと好きだったよ」


 ゾクッ──。


 耳元で囁かれたその言葉に、脳内で何かが反応したのが分かった。


 なに。どういうこと。これは。


 あ、だめだ。だめだ、だめだ、だめだ。

 いやだ、認めたくない。


 燃えるように熱い体が、昨日とは違う。彼氏がいたことないから緊張してるわけじゃない。


 いま、私、そのセリフに、期待した。


 “じゃあ、いまも好き?”と。


 やめてよ。折角、凪砂くんのことを忘れてたのに。久重先輩が好きなのに。久重先輩と多分両想いなのに。凪砂くんさえいなければ久重先輩と付き合えるって思った矢先に。


 ずるいよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ