第57話
スープ持って来て、と言われて、慌てて頷いてスープを入れてリビングに向かう。ごとっとお皿を置いた凪砂くんは、偉そうにソファに座ってふんぞりかえった。
「ね、ねぇ…桃花ちゃんと何かあったの?」
「だから言ってんじゃん。卒業式に言われたんだよ、付き合おうって」
「…それで、」
「もちろん、ノーに決まってんだろ。それどころか、マジでむかついて、連絡取ってねぇ。そのためにわざわざアドレス変えたし」
「そこまで…しなくても…」
「まぁ、アイツもアイツで俺の連絡先探らなかったけど。桃花と離れられたから、マジで転校して良かったわ」
差し出したスプーンを手にしながら「いただきます」と凪砂くんは手を合わせた。私も隣で手を合わせる。
「…そんな言い方しなくてもいいじゃない。桃花ちゃんだって凪砂くんのことずっと好きだったわけだし、」
「別に俺を好きだろうがなんだろうが知ったこっちゃねーが。だからって外堀から埋めて恋人ごっこを強要するとか、ただの迷惑」
忌々しげに凪砂くんは呟いた。そっか…と呟くような返事をする。なんで、そこまで桃花ちゃんの告白が嫌だったのか、分からない。それ以上のことが、あったんだと思うんだけど。教えてくれないのかな。
「…それで、ひっしーとは何話したの?」
ひっしーは、凪砂くんの親友。今朝先輩に嘘をつくときに頭に浮かべた人でもある。
かっこよくて優しくて、野球部キャプテンだったみんなの人気者。高校は別々だったけど、中学のときは桃花ちゃんも含めて4人でよく遊んでた。
「別に…アイツ、お前がうちの大学にいることは知ってたからな」
「そうなの?」
「野球部副キャプだった青木、高校も同じだったろ」
「あ、うん。そう言えば青木くんもうちの大学だっけ…」
「工学部だけどな。それで、お前もいるって聞いたらしい。青木、お前のこと好きだったらしいじゃん」
「………あのさぁ、なんでそれ私に言うの?」
サラリとデリケートなところをつつく凪砂くん。頬をひきつらせた私に、凪砂くんは無表情を向ける。
「お前、マジで痩せてからモテたんだな」
「そ、そうね…でも青木くんくらいかな…」
「あぁ、フッたのが?」
「……それで、他に何話してたの?」
掘り下げられてはたまらないと話題を変える。凪砂くんは「別に、」と言いながらオムライスを頬張った。
「大学では野球やってないとか、浪人中どうだったとか、お前が今日先輩とデートしてるとか」
「ちょっと待って。最後」
「いいだろ別に。アイツにもお前の恋愛事情知る権利くらいあるんじゃね」
「あのねぇ…まぁ別の大学ならいいけどさ」
はぁ、と溜息をつく。確かに仲良かったし、当時は凪砂くんが好きだって相談にも乗ってもらってたけど。凪砂くんがそれを知ってるわけじゃあるまいし。




