第49話
遅いお昼を食べ終わって、そろそろイルカとアザラシのショーでも、と2人で立ち上がる。すっと、久重先輩が伝票を持った。
「あっ、いいですよ、払います!」
「別にええって」
「なんか悪いですし!」
「気にせんで」
本当に、気にしなくていいように、久重先輩はさっさとレジに行ってしまう。慌ててバッグを持って追いかけるけど、久重先輩は払わせようとしない。
「私1人しかいないのに申し訳ないですよ」
「1人やからええのに」
入場料は出させたし、と久重先輩は言って、私が財布を持つ手を押さえた。
「なら、代わりに1個聞いていい?」
「え? なんですか?」
おつりを受け取って、久重先輩は歩き出すから、慌てて隣に並んだ。
「ミツと凪砂、付き合ってるん?」
…え?
どっと、冷や汗が流れた。どういうこと。何でそんなこと急に。っていうか、この間、何もなかったって言ったはずなのに。
思わずレストランを出たところで立ち止まった私に気づいて、久重先輩は苦笑した。
「答えたくないなら、ええけど」
まさか、私と凪砂くんの事故を知ってるとか? 凪砂くんが喋るはずはない…し、知ってるはず、ないけど。もしかして、凪砂くんが何かあの時の写真を撮ってて、たまたまそれを見た、とか?
嫌な想像がどんどん膨らむ。心臓がうるさい。息が詰まりそう。怖い。
「付き合ってないですけど、何で、ですか? 私、何か変なこと言いました?」
この人に、誤解されたくない。
「いや、別に、めっちゃ仲良かったみたいやし…なんとなく」
「でも、凪砂くんとは確かに仲良かったですけど…あの時も、付き合うなんてなくて、今もそういうことは、」
「ほら、な?」
「え?」
「ミツ、凪砂のこと名前で呼ぶやろ?」
え?
あれ、待って。
いつから?
ドクンドクンドクンと心臓が酷く激しく動いてる。誤魔化しようのない、自分の言動。
「凪砂くんって、私、言ってました…?」
「着いた辺りから、言っとったやん? 凪砂に女子紹介してあげたら、って話んとき」
そう、だっけ? もしかして、だから、久重先輩はあのとき、変な顔を?
「名前で呼ぶってことは、付き合ってるんかなぁと、思って」
「ち、違います! それは、その…名前で呼ぶのは、中学のとき、名前しか知らなかったからで!」
「でもいま名字で呼んどるやん? わざわざ呼び方変えたのはなんで?」
「その、名前で呼んでたら、へんに思われるかと思って、」
「へんって、何が?」
「その……」
告白したって、バレそうで。




