第48話
ぐっと、スマホを握りしめる。どうしよう、無理だ。今日は、久重先輩と普通に接することができない。普通に接するには、昨日の凪砂くんが意識にありすぎる。
「…男扱いしかされないんです、基本的に。だからそういうのじゃ、」
「そう? 女扱いされてると思うけどなぁ」
「どの辺がですか…? あ、先輩、そろそろ戻りましょうよ」
お昼食べましょう、と時間を見た。久重先輩の表情を見ることができなくて、少し俯く。スマホに凪砂くんからの新しい連絡はない。
「…せやな」
久重先輩は、そのことをどう思ったのだろう。
静かな声と、気まずい空気。何で気まずくなるのか、わかんないけど。まだ私、先輩に告白したわけでもないし。知られてるわけでもないし。
まさか、先輩が私を好きなわけでもないし。
でも、仮に。仮に、先輩が私を好きだとしても。このタイミングで告白したって、どうにもならない気がする。
どう考えても、私と凪砂くんとの関係が怪しすぎる。頻繁に連絡が入ってるし、よく話題が出るし…、中学の同級生だし。しかも、実際、“ああいうこと”になったから、問い詰められたら嘘をつくことになる。
微妙な空気でレストランに戻って、どこまで名前が呼ばれてるか確認して。ぎこちなく、無理矢理話題を捻りだすように新歓とか試験とかの話をしてたら、「ヒサシゲ様~」と呼ばれた。一瞬自分のことって分からなくて、久重先輩が立ち上がってから慌てて立ち上がった。
メニューは普通だったけど、運ばれて来たお皿が可愛かった。フォークの先がカニの鋏に見立ててあって、ナイフの柄にもサメの絵が入ってる。
「可愛い…」
「これ、土産にもなってるんか」
チラッと久重先輩がレジの方を見た。目を凝らすと、目の前にあるフォークとナイフが、スプーンとの3本セットで箱に入ってるのが置いてあった。
「あると可愛いですよね。お皿まで揃えたくなっちゃいますけど」
「模様可愛いなぁ。でも男が持つと、な」
「確かに、久重先輩の家でここのお皿出てきたら可愛いですね」
「マジで? 女子力高いって褒められる?」
「…そうですね!」
一瞬反応に困った私に、久重先輩は苦笑した。
「冗談。昨日、皿1枚割ってん」
「えっ!? 怪我とか、」
「ん、それは特に」
大丈夫、と答え、久重先輩は少し視線を泳がせた。
「あの…どうかしましたか?」
「いや…」
なんだろう。首を傾げてみたけど、久重先輩は何も言わない。
「そう言えばこの間ワタがな、」
何かを誤魔化すように、久重先輩は綿貫先輩の名前を口にした。その理由は分からなかったけど、先輩相手に問いただすこともできなくて、その話題に乗った。
けれど、問題はすぐやってきた。




