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イーブン・イフ  作者: 裏柳 白青
4. Re Strain
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第47話

「どこにあります? クラゲ…」

「こっからやったらクラゲの前に──」


 先輩の手元を覗き込もうと思ったけど、近づくことはできなかった。あんまり近寄ると緊張して上手く話せない気がする。ドクンと心臓が鼓動して、唾を飲み込んだ。


「じゃあ深海魚からクラゲ見ましょう」

「ん、りょーかい」


 久重先輩はパンフレットを畳んでもう一度ポケットに突っ込んだ。


 深海魚コーナーで変な形の魚を見て、私も久重先輩も思わず眉を顰めた。なんだか子供に戻った気分だった。クラゲコーナーでは、久重先輩が目を輝かせてライトに照らされてるクラゲを眺めてた。


「写真撮りましょうか?」

「撮って撮って!」


 ちょっと可愛い、なんて思いながら、苦笑してポケットからスマホを取り出した。その時、ロック画面に表示されてるのは、やっぱり凪砂くんからのLIME。3件。


 一番上は≪念願の…≫だけど、内1件が画像を送信しました、とあったから、気になった。


 きゅっと唇を引き結んで開いたそこに写ってたのは…なぜか、美味しそうなチョコケーキ。上にピンク色のマカロンっぽいものも乗ってる。なに、これ。


≪ここのケーキ屋、チョコ系で有名らしい。食う?≫


 …何で急に?

 既読がついたことに気づいたのか、もう1件来た。


≪部活の道具買いに出たら近くにあったから≫


 はぁ。


≪どうせ夜お前の家行くし≫


 …どうせ私は都合の良い女ですよ。


「ミツ? どしたん?」

「え? あ、すいません、撮りますよー」


 凪砂くんとのLIMEに気を取られてたことに気づいて、慌てて笑みを浮かべてカメラを起動する。久重先輩は首を傾げてたけれど、カメラを向けられたことに気づいてニコッと笑った。


 それがうつってる画面を見つめながら思うけど、こんな笑顔向けられて好きにならない子はいない。


 パシャッと音がした後、丁度またLIMEが来た。


≪既読スルーしてんじゃねぇよ。もう買ったから夜持ってくわ。先輩にお持ち帰りされんなよ≫


 ……本ッ当に何様のつもりなの、コイツ。


 怒りで唇がひくひく動くのを感じる。久重先輩が戻ってきたことがあんまり気にならないくらい。


「ミツ、さっきからどしたん?」

「…凪砂くんが、ちょっと」


 思わずぽろっと零した。久重先輩の眉がちょっと寄ったことにも気づかず。


「ちょっと?」

「なんか…もう、私のことなんだと思ってるんだろうっていうか…」


 はぁ、と溜息まで零してしまった。


「ケーキ買ってご機嫌取りでもするつもりなんですかね…」

「凪砂がご機嫌取りなぁ。アイツ、誰かの機嫌取るタイプやないから、むしろミツには下手に出てるんちゃうの?」

「そんなまさか!」

「てか、痴話喧嘩みたいやなぁ」


 久重先輩は苦笑した。ギクッと、私は硬直する。

 駄目だ。この数時間で何度犯した間違いなのだろう。


 私の中にいた凪砂くんが──中学生のときの凪砂くんが、大きく、なってる。


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