第46話
マンボウとか、クラゲとか、スナメリとか。結構可愛い辺りを見て久重先輩と盛り上がって、カワウソが餌を食べる姿にキュンキュンする。
「かっ……可愛い……カワウソ飼いたいですよね…!」
「ほんまやなぁ。でもミツもあんな感じやで、菓子食ってる時とか」
「えっ。どういう意味ですかそれ…」
「カワウソと同じくらい可愛いって意味でええんちゃう」
ぼっと顔が赤くなりそうになって、慌てて顔を久重先輩から逸らした。
「ええんちゃうって、言ってるのは久重先輩じゃないですか…」
「ごめん、結構適当なこと言ったわ」
「なんですかそれ!」
そのとき、スマホが振動して、ぱっと取り出して見た。そして、目に入る凪砂くんの名前に慌ててポケットに入れ直す。せっかく忘れようとしたのに、こう頻繁に連絡を取られてはたまらない。
「ミツ、昼飯どうしたい? 混む前に行く?」
「あ、そうですね…って言っても、もう12時過ぎですよ?」
しっかりピークじゃないですか、と顔をしかめると、久重先輩も時計を見て目を丸くした。
「あれ、まだ11時半くらいと思ってんけどな…ミツ、腹減った?」
「減りました!」
「そういうとこ素直でミツはええな。そしたら行ってみよ、もしかしたら空いてるかもしれんし」
と、久重先輩は楽観的に言ったけれど。入場料が周年で安くなっていつもより混んでるのに、館内のレストランが空いてるわけがなかった。久重先輩と顔を見合わせる。
「…どうしましょう?」
「どうしよう? 腹減ってるんなら待つ?」
「あ、我慢できますよ」
「どうせ今日人多くてどの時間もあかんやろ。待っとこ」
名前書いてくるわ、と久重先輩が軽く手を挙げる。爽やか…それでもって嫌味がない。思わず頬が緩みそうになったのを慌てて引き締めて頷いた。
久重先輩は名前を書いて、店員さんとちょっと喋ってた。待ち時間でも聞いてるんだろうか、と見ていて、久重先輩は軽く頭を下げて戻ってくる。
「少なくとも1時間以上待つらしい」
「さすが…混んでますね」
「少なくとも、ってことなら、1時間見てから戻る? 待ってても暇やし」
「そうしましょうか」
こくっと頷くと、久重先輩はポケットに突っ込んでたパンフレットを取り出す。
「どこ行く? こっち来たせいで若干順路外れたけど」
「そうですね…今回私はカワウソが目当てだったので…先輩、何か好きなのいないんですか?」
「んー、クラゲかな」
「クラゲ…」
「透明で綺麗やん?」
そうなんだ…、と頷く。特に意外というわけではないんだけど、初めて知る久重先輩の好きなもの。




