第44話
それは、少し、もやっとする。学部で美人って有名な末武さんと仲良く話してるのを飲み会で目にしたときも、全然気にならないって大嘘だし。
「…凪砂くん、女の子の好み五月蠅そうですから」
下手に紹介できないです、と、誤魔化しておいた。久重先輩が少しびっくりした顔 をしたけど、「んー、そっか」と頷いて、凪砂くんの話は終わる。
「んー、何もポスターとかないなぁ。なんなんやろな、今日」
「んー…あ! 入場料が安いんですよ!」
どこから入るんだろう、と思っていた矢先、視界に飛び込んできた金額。通常の入場料の上からいまの入場料が貼り付けてあった。雨でよく見えん、と言う久重先輩と窓口に並んで暫く、久重先輩が目を細めた。
「開館記念日が今月なんやなぁ…それで安いんか」
「あ、そうなんですね。そこまで見えなかったです」
「ミツ、地元やんな? 来たことある?」
「いえ、初めてです。できたの結構最近なんですよね、確か私が受験生のときで…」
「あー、そっかそっか、3周年って言えばそうやんな」
少し雨が酷くなってきた。足元がぐしゃぐしゃ、と下を見て顔をしかめる。
「…なぁミツ、凪砂にLIME返さんでええん? 別に俺気にせんけど」
「あ、いいんです! 急ぎじゃなかったんで!」
パタパタと手を横に振る。久重先輩は苦笑した。
「なんかええな、そういうの。すぐに既読付けんでもいいみたいな関係」
「あー、でも普段は結構催促来るんですよ、凪砂くん。既読付けなかったらスタンプ乱発したりとか、」
時々妙に可愛いスタンプとか使うんですよね、と思わず笑ってしまう。
「この間も気付かないで放置しちゃってたことあったんですけど、10件近くLIME溜ってたんですよ! 私だって用事あって見れないことくらいあるのに、」
「へぇ…」
「用事あったからって言ったら、バイブで気付くだろとか、緊急だったらどうするんだ確認しろよとか、なんかよく分からない嫌味言われて…なんで凪砂くんって偉そうなんでしょうね。本当にもう何様なんだろうっていうか、」
そこで、はっと口をつぐむ。まただ。またやってしまった。
「す、いません、その…面白くない話で…」
「いや、凪砂の意外な一面って感じておもろいけど」
どうして、こんなところで邪魔するの、凪砂くん。




