第42話
話してる内に、乗り換える駅に着いて電車を降りた。少し遠い乗り換え先まで、休日の雑踏の中はぐれないように横を歩くと、久重先輩が近くて緊張する。
「あ、ミツ、そう言えば凪砂のことなんやけどな、」
そして、その名前に別の意味で緊張が走った。思わずびくっと体が震えてしまった気すらする。
「桐生くんですか?」
「うん。アイツに今日のこと話した?」
「え」
目が点になった。どういうこと。
「今朝LIME来て、まぁ別の用事やけど…今日デート楽しんでくださいねって来て」
「……その、昨日の飲み会の、流れで」
「アイツ意外と人のこういう話好きなんやな。普段全然食いつかへんのに」
桐生くん、なんで、わざわざLIMEして言うの。
「凪砂も全然言わんけど、中学ん時かなり仲良かったんやんな?」
「……まぁ、」
「中学1年のときから?」
何か勘ぐられてないといいけど、と思いながら、久重先輩の変わらない声色にほっと安心して答える。
「いえ、2年です。1年のころは全然知らなくて」
「そうなんや。大学になったときびっくりせんかった?」
「すごくびっくりしました! 全然、本当に、もう会わないと思ってたんで…」
「え? そんなに?」
そして、思わず口走ってしまった。はっと気づくけど、遅いに決まってる。
「高校、そんな遠かったん…ってか、凪砂とミツ、出身全然ちゃうやんな?」
ミツ半分地元こっちやし、と言われる。そっか、私と凪砂くんの出身が違うことを、部の先輩である久重先輩が知らないわけがないんだ 。となると、隠すことじゃないかも。
「…向こうが、中学卒業と同時に引っ越しちゃったんで」
「あー、なるほどな。そりゃそう思うなぁ。連絡先も交換せんかったん?」
「まだ携帯も持ってませんでしたし…本当に、あの頃はもう絶対に会わない人だと思ってました」
そう、もう絶対に会わないって思ってた。だから告白した。
もし、凪砂くんが引っ越さなかったら。告白しなかったかも。もしも、あのまま卒業して、同じ高校に行ってたら。そのまま同じ大学に来たとしても、告白はきっとしなかったと思う。
ホームについて、来た電車に乗り込む。地下鉄にもう数十分揺られれば、水族館には着くけれど。
「親同士が連絡取ったりとかなかったん?」
「なかったです…親同士は特に繋がりもなかったんで」
「その仲良かった友達は? 最初言っとったやん、仲良い友達と仲良しで―とか」
私と凪砂くんが出会ったきっかけ。当然、彼は凪砂くんの連絡先を知っていた。連絡取る?と言ってくれた、けど。
「…聞かなかったんです」
「え? なんで?」
──フラれたから、とは言えなかった。




