第41話
そう思ったけれど、下手な嘘は久重先輩に見破られる。中学のときの桐生くんの親友を思い出して、彼を想定した。
「ま、まぁ、かっこよかったです。だからリア充一歩手前なんだって話してました」
「合コンでする話ちゃうやろ、そいつ」
「だから合コンじゃなかったんです!」
「えー」
そうなんかなぁ、と久重先輩は苦笑するので、少し頬を膨らませて抗議した。
「学校以外でミツに会うの久しぶりやなー。そんなカバン持っとった?」
「持ってましたよー。夏物だからですかね?」
「かな? 女子って小物多いよな」
「先輩もボディバッグなんて持ってるの初めて見ました…」
「手に持つの嫌いやねん」
つり革に捕まること多いから、と久重先輩は言う。少し筋肉がついた細い腕が半袖のせいでむき出し。思わずじっと眺めていると、首を傾げられた。
「どうしたん?」
「あ、いえ…その、サッカー部なのに腕の筋肉つくんだなって…」
思いまして…と語尾がしぼんでいくのが自分でも分かる。久重先輩の腕を見てたなんて恥ずかしすぎる。
「ん? やからあんまないよ」
「え、そうです?」
「まぁ女子からしたらあるんかもしれんけどな。男ならみんなそうやろ」
男女の差──と言われると、昨夜の桐生くんが脳裏に浮かんだ。もう中学生じゃないから、体で繋がれる──…。
「ミツ? どした?」
「い、いえ! 何でもないです!」
思わず唇を引き結んで何かを堪えるような表情をしてしまった。久重先輩に覗きこまれて気付いて、慌てて表情を意識する。
桐生くんが、何かと頭から離れない。
「でも早いもんやなぁ。ミツ入ってきたばっかやのに、もう新入生…」
「来月からですよね? いつから来るんですか、新入生」
「1日が火曜やから、そっからかな? 2限に人集めに行くんやけど、嫌やわー、なんで俺も行かなあかんの」
はぁ、と久重先輩が溜息をついた。久重先輩は部長副部長でもないし、広報担当でもない、ただの平部員。
「そうなんですか?」
「ヒロに言われてんー。顔だけは良いからとか。だから広報担当代表の伊勢と、部長のワタと、副部長のヒロと、平の俺! なんでやねん」
「綿貫先輩も異論なしだったんですか?」
「そう! アイツも俺の良い所は存分に発揮すべきやとか…」
なんやねんなんやねん、と久重先輩は口をとがらせる。そう言いながらも本気で嫌がってるわけじゃないことは分かるから、思わずふふっと笑ってしまった。
「いいじゃないですか、褒められてるんですよ。1年生も久重先輩みたいなイケメンな人がいるほうが嬉しいですって」
「俺のこと素直に褒めてくれるのミツだけやん…」
素直に、という言葉に、また、桐生くんが浮かぶ。
桐生くんと、ああいうことになっておきながら、図太く、久重先輩とデート?
普段ならそんなこと考えなかったかもしれないのに──…。チクチクと、昨日の桐生くんが私の胸を刺してくる。ここまで、鮮明に、残るなんて。




