第40話
次の日、服と髪型を普段の数倍時間をかけて決めて、そわそわしながら駅に向かった。って言っても、ショートパンツなのも少し肩紐が見えるニットもいつも通り。
せめて髪型だけでもと思ったけど、雨だし。側頭部を編み込んでハーフアップということで妥協した。
外は小雨が降ってるから傘を差してる人はまばら。駅前は広めに屋根がでてるお蔭で傘を差してる人はいなくて、改札前にいる久重先輩の姿がぱっと目に入る。
時計を見ると10分前。先輩、早い。
スニーカーでもないし雨も降ってるしで走るわけにはいかず、慌てて速足で歩いた。久重先輩はちらっと時計を見て、スマホを取り出して──ふと、こっちを向いて、にかっと笑った。
目の前まで行って、傘を閉じて、少し息を整えると、ぷっと笑いが降ってくる。
「別に、急がんで良かったのに」
「い、いえ、お待たせしてすいません…!」
「全然。来る前に用事あってんけど、早く終わってん」
「そうだったんですか…あ、昨日の夜はLIME遅くなっちゃってすいません…」
「ええねんええねん。別に気にせんで」
明るく笑う久重先輩に、少し胸の奥が痛んだ。久重先輩とLIMEをやり取りしてた途中の、桐生くんの言動。手首に、桐生くんに掴まれた感触がまだ残ってる気がして、時計の上から触ってしまう。
「いこ、ミツ。ミツのせいで雨やけど」
「だっ、だから私のせいじゃなくってですね!」
なんでそんな意地悪言うんですか、と憤慨すると、そこまでが予想通りだったとばかりに久重先輩は声を上げて笑った。改札を通って電車が来るのを待つ間、ホームから空を見上げるけど、雲は厚くて晴れそうにない。
「そういやミツ、昨日の合コン、おもんなかったんやろ」
「え!?」
なんて、呑気なこと考えてる場合ではなかった。そうだ、久重先輩の中では、昨日桐生くん企画の飲み会に行ったことになってたんだったわ…。
でも面白くなかったんだって断定されるのはどういうことでしょう、と思いながら手を横に振る。
「そ、そういうわけでは…なんでそう思うんですか?」
「だって、俺がLIMEしたの7時って、どー考えても飲み会の真っただ中やろ。なのにめっちゃすぐ既読ついたし、返事もめっちゃ早いし」
まぁ返ってこんくなったから飲み会盛り上り始めたんかなーとは思ったけど、と言われて、ひくっと頬がひきつった。さっき、下手に言い訳をしないでよかった。寝落ちしてました、とか言ったら、飲み会がなかったことがバレるところだった。
「そ、そうなんですよ、盛り上がり始めたら、通知聞こえなくて…」
「凪砂の友達やっけ? かっこよかった?」
どうしよう、そんな人いない。




