第4話
はああぁぁ、と大きな溜息をつく。思い返しても憂鬱で、一日中、心ここに非ず・の状態で過ごした。
お昼を一緒に食べた來未ちゃんとはなんとか明るく喋ることができたが、3限4限は授業内容が頭に入って来なかった。
授業終わりにのろのろと帰路につき、家で適当なおかずを作って食べ、ぼんやりとテレビを見ていた時、玄関のチャイムが鳴った。
「お邪魔します」
「…入れるなんて言ってないけど」
「昨日」
「…どうぞお入りください」
因みに、叔母が不動産業をしているお蔭で、大学の下宿だけどLDKに安く済んでいる私。今朝を髣髴させる寝室は扉の向こう。
桐生君は上機嫌でリビングに来ると、我が物顔でソファに座り、くつろぐ。
「…あの。昨日、何が、あったか、教えてくれませんか」
「畏まるなよ」
普段ほとんど無表情に近い桐生くんの口角が吊り上る。
「“初恋の桐生くん”がいて、嬉しいだろ」
――そう。桐生君は私の初恋の人。
なぜそれを本人が知っているかというと、中学の時告白したから。卒業する時に。
そして潔く、フラれているから。
「顔赤。まだ好きなんだ、俺のこと」
「違う!! 反射!! 勘違いしないでよ!!」
不気味に笑う桐生くんを睨みつけて、ソファにばふっと座り込む。クッションを抱え込んであぐらをかく私を、桐生くんは更に不気味な笑みを浮かべて見る。
「偉そうだな」
「……ご…めんなさい…」
たった一言しか言われてないのに、謝ってしまった。逆らえない。私から顔を背けニュースを見始めた桐生君に恐る恐る問う。
「あ、あのう…」
「何」
「………私達、その、…しちゃったの…?」
「やっぱ覚えてないんだな」
そ、それはつまり…!!
真っ青になった私に、桐生くんは顔を背けて肩を震わせた。
「くくっ…マジで面白いな、光宗深里」
「うるさい! 相変わらず性格悪いわね桐生くん!!」
──初めての学部飲み会を思い出して、苦虫を噛み潰す。