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イーブン・イフ  作者: 裏柳 白青
3. Dis Advantage
37/108

第37話

 なに、その言い方。


「そんなこと言ってないじゃない!」

「じゃあなんだよ、余計なことって」


 ごくっと、唾を飲み込んだ。桐生くんの予想は、あながち間違ってないけれど。


「…桐生くんが、私の初恋の人だってことよ」

「は。同じじゃねぇか、俺なんかを好きになったことが人生の汚点?」

「違う! 私はっ…私は、そんなこと思ったことない!」


 知らず知らず、息が上がる。原因は、分からない。


「私が、いま、久重先輩を好きだから! 余計な話をされて、私は桐生くんが好きなんだって、久重先輩に勘違いされたくないから!」

「カンチガイ?」


 妙な単語を聞いたとばかりに、桐生くんは口角を吊り上げた。その表情の変化に、ドクッと体が震える。


「お前、馬鹿か? 俺達、もう中学生じゃないんだぜ?」

「そんなの分かってる、」

「男女の力の差なんて、とっくの昔にはっきりしてる」


 桐生くんの胸を押し返してた両手が、桐生くんの片手でつかまれた。何で、私の両手が桐生くんの片手で封じれるのか分からなかった。

 片手で体を支えて、片手で私の頭上に両手を固定する桐生くん。そんな体格差、なかった、はずなのに。


「は、放してよ、」

「お前、馬鹿なのか、天然ぶってんのか、どっちだよ? 普通、無警戒に俺を部屋に招き入れるか?」

「そんなの──」


 確かに、馬鹿だ。いくら何があったか知りたかったとはいえ、当事者の桐生くんを部屋に入れるなんて。


 でも、どこかで期待してた。なんやかんや、何もなかったんでしょ、と。桐生くんはそんなことしないと、信じてた。

 でもそれは桐生くんの口からあの夜の話を聞くまでで、聞いた後は、どうして警戒しなかったのか、分からない。


「だったら、カンチガイじゃねーだろ。お前、どこかで俺のこと忘れてねぇだろ」


 ビクッと、脳が、震えた気がした。


 ──嘘だ。

 私は、久重先輩が好き。

 桐生くんは、私の中でもういない。


 ──はず。


「違うっ…違う、もう、桐生くんは、」


 桐生くんの瞳から、顔を覆い隠したかったけれど、桐生くんの両手がそれを赦してくれない。


「だって、わたし、あのとき、もう、凪砂くんのことは、諦めて、」


 告白したときのことを思い出して、涙があふれた。あの時泣いてたみたいに、涙が目尻から一直線に流れてソファに零れる。


「好きだった、けど…ずっと、ずっと凪砂くんのこと好きだったけど、忘れたの。もう会えないって思ったから、」

「じゃあ、ここで“凪砂くん”に会って、お前はどうなってるわけ」


 核心をつかれて、言葉に詰まる。なんでそんな突っ込まれる理由を付けてしまったんだろう、と。


「…凪砂くんに、会った時…もう、久重先輩好きだったから、」


 じゃあ、久重先輩より先に凪砂くんに再会できてたら。

 そしたら、私はどうしたんだろう?


 分からない。だって、現実、私は久重先輩に出会った。久重先輩を好きになって、それから凪砂くんに再会した。だから、分からない。


 理屈じゃない。別の現実があったときの気持ちなんて、想像できない。分からない。


 戸惑った私をじっと見下ろしていた桐生くんが口を開く音がした。


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