第28話
その声につられて顔をあげるけど、その視線はテレビに注がれてる。つられてテレビを見ると、近くの水族館の特集がされていた。近くって言っても、県内にあると言うだけで電車で1時間弱かかるのだけれど。
その水族館の、カワウソの、餌やりシーン。短い脚で立って短い手で餌を掴んでる。
「な、なにこれ、可愛い…!」
「やべー、くっそ可愛いじゃん…なんだこいつら」
思わずさっきの会話も忘れてソファに座ってテレビに見入ってしまう。2匹のカワウソがひょこひょこと餌にたかる。こんな可愛い生き物がいるなんて…!
「あ、ああぁぁっペンギン…! あ、あでりーぺんぎん…! 可愛い…っ!」
「皇帝ペンギンでけぇ…」
「ちょ、ちょっと見た!? いまの、僕にはもらえないんですか的な顔! なにあれ狙ってんの…!? あざといいいい」
「…」
「魚に! 食いつく! わああああ萌えるっ」
さっき桐生くんに押し付けたクッションを今度は抱えながら、テレビを凝視していた私。その私を、桐生くんが凝視していることに気付いた。怪訝な顔を向ける。
「…なに。可愛い可愛いって連呼しちゃダメなの」
「いや、まぁ、好きなんだなぁと」
「うん、だって可愛いじゃない」
今度はラッコがうつってる。お腹に餌っぽいものをのせて泳いでる。桐生くんはじっと私を見たまま。
「…お前、動物好きだったな、そう言えば」
「好きですね」
「…ふぅん」
意図がよく分からない質問と、意味深な返事をした後、桐生くんの視線はテレビに戻った。




