第25話
「いい? もし、ミツがデートのつもりで久重先輩をご飯に誘って、じゃあ今度みんなで行こうって言われたら、どうする?」
「…それは、まぁ、ただの先輩と後輩だし、仕方ないかなぁって…」
「そう。その通りよ」
びしっとりっちゃんは私の額を弾いた。
「あ痛っ」
「もし久重先輩が本気なら! あれはどう思うでしょうねぇ?」
「えっ、えっ、もう駄目なの?」
「うーん、駄目とは言わないけど。久重先輩が本気だとしたらちょっとね…」
「りっちゃん!」
頼むから見放さないで、とすがりつく。ふむ、とりっちゃんは顎に手を当てた。
「これからの駆け引きしだいかな。っていうか、久重先輩が本気なのかどうなのか分からないのが一番問題かな…」
「…その通りだよ」
はぁ、と溜息をつく。ちょうど先輩達も出てきて、みんなでぞろぞろと駅の方へ向かうのだけど、幸か不幸か、私の隣には久重先輩が来た。そのせいでりっちゃんとの話は強制終了。それどころか気を利かせたりっちゃんはすっと私の隣から消えた。
「なぁなぁ、さっきの話やけど」
「え」
そう切り出され、心臓が飛び上がった。さっきのって何、ご飯食べてる時にしてた話? それともりっちゃんとの話、聞かれた?
「ミツと凪砂って結構仲良いんやな」
「あ…」
ご飯食べてる時のほうか、とほっとした。心臓はまだバクバク言ってるけど。
「まぁ…なんというか、中学のときに、それなりに仲良かったので…」
「共通の友達がいたから?」
「そ、そうです! その、小学校の時から仲良かった男子が、凪砂くんと仲良くなって…それでそばにいた私も…」
「そーなんか。いいなー、俺もミツみたいな可愛い女の子紹介してほしい」
…冗談でも、可愛い可愛いと言われると、顔が熱くなる。
「で、でも、中学のときの私、すごく太ってて! 桐生くんなんて、初めて話した時、大福みたいとか言ったんですよ!」
「大福…」
「なんかもちもちしてそうとか言いだして、私のほっぺ触って名実ともに大福だとか笑い出して! 酷くないですか! 自己紹介する前からそんなこと言われて、名前は大福じゃないんだとか意味わかんないこと言われて…桐生くんだって、中学1年のときはちっちゃくて、顔も女の子みたいだったんですよ? それが今になって──」
当時の話をしてて、はっと気づく。こんな話してどうするの、私。
「す、すいません、どうでもいいですよね…」
「いやー、いまのミツ、腕とかめっちゃ細いから。大福とか意外やな」
ははは、と久重先輩は笑うけど、若干愛想笑いな気がする…。先輩に気を遣わせてどうするの私。




