第23話
「なぁミツ、ミツって凪砂と家近かったっけ?」
みんなで近くの定食屋さんに行くと、久重先輩は唐突に言った。
飲んでいたお茶が気管に入ってむせ、前に座る宏林先輩が「大丈夫?」と言いながらお茶を入れてくれた。隣のりっちゃんが目を丸くする。
「凪砂って、桐生凪砂ですか?」
「そうそう。この間ミツと一緒に帰ってるの見て」
いつの話だろう…正直、最近学校で桐生くんに捕まることが多いせいで、いつの話か分からない。
「いや…桐生くんとは、途中までしか一緒に帰らないんで…桐生くんの家がどこらへんかは…」
「っていうか、久重先輩、桐生くんのこと何で知ってるんですか?」
「部活一緒やねん」
「あー、そうなんですね」
りっちゃんは初耳です、と頷いた。1人桐生くんが分からない宏林先輩は首を傾げる。
「誰、桐生くんって。話的に2回生だろうけど」
「なんかなー、ミツと中学の同級らしいで」
「え?」
ひくっと、頬がひきつった。久重先輩、それは余計な情報です…。知らないりっちゃんがびっくりして私を見た。
「そうなの? え、何で話してくれなかったの?」
「話すほどのことでもないかな、って…思って」
「え、でも普通に仲良かったんやろ?」
「ま、まぁ…」
「なんだー、深里ちゃん、やっぱり彼氏っぽい人いるじゃん」
何で宏林先輩とその話をした日に久重先輩にそんな話をされてしまうのか…ついてない、と思いながら私は目を逸らす。
「いえ、断じて彼氏っぽい人ではありませんので。絶対に付き合うなんて有り得ませんので」
「そうなの? どんな人なの、その桐生凪砂くんって」
「んー、顔は良い方かもしれないんですけど…なんか話したら冷たくされるし、あんまり女子と話さない感じなのかなーって思いますよ」
りっちゃんからの意見に、へぇー、と久重先輩は頷いた。
「アイツ、そんな感じなんやな。こっちだと楽しそうにしとるけど」
「昔からサッカー好きなんですよね…」
ぼそっと呟いてしまった。久重先輩が私を見たのが分かって、ぎくっとした。
「そうなん?」
「あ、えーっと…中学もサッカー部だったんで…」
「なんで仲良いの?」
「……共通の友達がいまして」
「俺も共通の友達から可愛い子紹介してもらえんかなー」
はぁ、と久重先輩は溜息をつく。これも、冗談だと、思う。
「ねぇねぇ、りっちゃんから見てぶっちゃけ桐生くんと深里ちゃんってどんな感じなの?」
「先輩! さっきも言いましたけど、私と桐生くんは全然そういう関係じゃないですよ!」
数週間前の過ちが脳裏に過って声が上ずった。でも、あれはあれっきりで、彼氏彼女とかそう言う関係になったわけじゃないんです!
「んー、桐生くん、全然女子と喋るの見ないから…ミツの仲良いのは結構目についてますねー」
「りっちゃん! 余計なこと言わないで!」
「あー、でもそれだけで、むしろミツがやや逃げようとしてる感出てるんで、面白がって見てます」
あはは、と笑って終えたりっちゃん。そう思ってたなら助けてよ! 昨日レジュメ仮に来た時とか!
なんだつまんないのー、と宏林先輩は笑った。久重先輩も、そうなんやー、と相槌を打つ。
「時々一緒におるの見かけるから、めっちゃ仲良いと思っとってんけど」
「そう、でもないですよ…」
「ほら、一緒に宅飲みする仲とか言っとったし」
「だからそれは桐生くんの冗談でっ…」
「でもよく一緒に飲んでない?」
「だから余計なこと言わないでよりっちゃんー」
うわああ、とりっちゃんに泣きついた。宏林先輩も久重先輩もりっちゃんにからかわれる私を見て笑ってる。
「じゃあ今度一緒に飲み行こか、ミツ」




