第22話
火曜日、勉強会。今日の担当は副部長の宏林先輩。深里ちゃん深里ちゃんと可愛がってくれる、背が低くて華奢で、可愛い先輩。
「範囲が重なるって書いてあるけど、これはちょっとややこしい言い方になってるだけなんだよね。処理が一緒になるってだけで、構成としては別の話」
ふんふん、と説明を聞いて、答案の書き方を習う。みんなの勉強が終わる頃、部長さんが「今日飯行く人~」と声を掛け始めた。
「深里ちゃん、今日は?」
「行きます行きます」
「俺も行く~」
「久重くんには聞いてないでしょ」
「そんなこと言わんでや。ミツは俺がおらんと寂しいやんなー」
「そ、そうですね」
「な!」
「パワハラじゃないの…」
今日も明るく笑う久重先輩。ぐしゃっと頭を撫でられて、宏林先輩が頬をひきつらせてる。
「み、深里ちゃん…本当に訴えたくなったら言っていいんだよ? 久重くんのセクハラに耐えられないって…」
「あ、いえ、全然…」
嬉しいんで大丈夫です、なんて言えない。
久重先輩は私の答案を覗き込んで、ぱっと手に取る。
「ミツ、字綺麗やんなー」
「久重くん…今日は担当じゃないでしょ。そんなに深里ちゃんが好きなの?」
「実は大好きやねん」
「もー、そんな適当なことばっかり言って…深里ちゃんが困ってるでしょ」
にかっと、冗談なのかなんなのか分からない笑顔で言う久重先輩。宏林先輩のフォローがなかったら、本気で照れてたと思う。すごく、困る。
「でもミツも俺のこと好きやんな」
「えーっと…」
「ほら困ってる。いいんだよ深里ちゃん、正直セクハラに困ってますって言ってやって」
「えー、それ傷つくわー」
宏林先輩に軽くあしらわれ、久重先輩はどこかに行ってしまった。勉強も教え終わったから、ってことだと思うけど、他の先輩達とわいわい話してる。
「もうごめんねー、深里ちゃん。久重くん、本当にちょっかいかけてばっかりで」
「別に大丈夫ですよー」
さっさと彼女作ればいいのに、と宏林先輩は毒づく。
「久重くん、顔はいいじゃん?」
「…先輩、中身もいいと思いますけど…」
「そう思うなら深里ちゃん、彼女になってあげなよー。久重くん、サッカーの話しかできないんだよ? あれじゃーだめだよ」
私サッカーに興味ないもん、と宏林先輩は頬を膨らませた。サッカー以外の話もできるけど、と思うと、私だけみたいで嬉しい。
「ねー、深里ちゃんは彼氏みたいな人いないの? 深里ちゃん可愛いじゃん」
「そんなこと言ってくれるのは先輩だけです…」
「そんなこと言って―、本当はかなりいい感じの男いるんじゃない?」
宏林先輩にそう言ってからかわれてた、ご飯に行く前。




