第19話
そうやって、からかって。
睨みつける先の桐生くんは、もう私から興味を失ったみたい。お鍋の具を食べ始める。
「…中学生のときの桐生くんは優しかったのに」
「いまも優しいだろ」
「…中学生のときは、むやみに女の子に触ったりしなかったわ」
「お前のどこが女の子だ?」
「………久重先輩は女の子って言ってくれるわ」
「新也先輩は優しいからなー」
「…桐生くんの馬鹿」
「事実だろ」
そういう意味じゃないわ、と心で呟く。どうしてこの人は、未だに私をかき乱すんだろう。もう終わった初恋を、今更蒸し返さないで。
「おい早く食わないと、俺全部食うぞ? 部活終わりで腹減ってんだから」
「ちょっと私のぶんまで食べないでよ! もう本当に桐生くんってば何様のつもりよ!」
「ん~まぁ体だけの恋人様的な」
「だからああああそれを言わないでって言ってるでしょ!? 久重先輩の前でその話したら本っ当に怒るからね!!」
がみがみと叱るけど、はいはいと言って桐生くんは気のない返事しかしない。むっとした私は桐生くんの横顔をじっと見つめる。
いい。久重先輩に、桐生くんの好きな人でもなんでも聞いてやる。そして、あっという間に形勢逆転して、さっさとこの関係を終わらせてみせる。
「なー飯の献立ってどうしてんの?」
「えー…お買いものに行った時に食べたいもの買って、それからやりくりするみたいな感じかしらね…」
「へー。じゃああんま俺に気を遣ってないんだな」
「当たり前でしょ。何でたかりに来てるあなたに気を遣って献立考えなきゃいけないのよ」
早く桐生くんと一緒に過ごす時間を減らそう。
だって、今更桐生くんを好きになりたくないから。




