第14話
荷物を持って戻ってきた桐生くんは着替えてなかった。「帰ったらとりあえず風呂貸して」と桐生くんは言ったが、そんなことはどうでもいい。私は桐生くんを睨んだ。
「…ちょっと。何で先輩に言うのよ」
「何を?」
「中学の同級だとか」
「別にいいだろ。その程度でばれねぇよ」
「…だといいけど」
はぁ、と溜息をついて歩き出す。桐生くんはその溜息に反応したのか、私に視線をじっと向けた。
「…なに」
「いつもあんなことされてんの?」
「あんなこと?」
「こんなこと」
そして、わしゃわしゃっと私の頭を撫でた。というか、髪を乱した。
「ちょっと! 何すんの!」
「だから、こーゆーこといつもされてんの?」
「されてるけど何! どうせ久重先輩は誰にでもやりますよーだ! はいはい舞い上がってなんかいません!」
膨れた私に、ふぅん、と桐生くんは素っ気ない返事をする。何なんだ。
「桐生くんは彼女でもない子の頭撫でちゃだめなのよ! 久重先輩はイケメンだから許されるけど!」
正直、桐生くんも顔は並みの上くらいだけど。そして中学の時はこの仕草に何度顔が爆発しそうなくらい熱くなったか分からないけど。
女ってみんなそれだな、と桐生くんは気のない返事をした。男が可愛いは正義って言ってるのと同じだよ、と返す。
「んで、新也先輩とはどうよ」
「どうもこうもないよ…久重先輩、誰にでもあんな感じだし…」
はぁ、と溜息をつく。
なーんで桐生くんにこんな話してんだか。
「あっ…ねぇ、春香さんって誰?」
「あぁ、さっきの? マネだよ。3年の。ずっと新也先輩の彼女気取りだから」
「…何かあったの、久重先輩と」
「何も。しいて言うなら、新也先輩が春香さんのドストライクなだけだよ」
…よく分からない。
でも、元カノとかではないのか。少しホッとする。
でも…久重先輩先輩イケメンだし、モテるだろうし、そりゃーマネージャーやってて好きにならないわけがない。
私なんぞに好かれてたところで、ともう一度溜息をつく。桐生くんの視線が降ってきたのを感じた。
「…お前さぁ。新也さんのどこが好きなわけ」
「…何よ、唐突に。興味あるの?」
「べっつにー。お前は面食いじゃねーって知ってるけど」
マネの殆どは新也先輩狙いだし、と。その刺々しい言葉に眉を顰める。
「…桐生くん、マネに好きな子でもいるの?」
「…………」
桐生くんが黙った。少し胸が痛んだ。
あぁ、初恋って、面倒だな。




