第12話
部室に行く方向と門までの方向は同じだから、と一緒に歩く。
「もうすぐ新歓やんなー。ミツ、なんか仕事あるっけ?」
「私、当日の誘導ですよ。お店の場所覚えとかなきゃいけなくて大変なんですから」
春の今は、まだ1年が入っていない。1年は夏前に入ると決まっている。勉強サークルだから、やはり少し授業を受けて興味のある人が入るのがいいだろうという趣旨。
新歓の飲み会は入会完了後、試験終わりの8月に試験お疲れ様も兼ねてする。久重先輩は去年の新歓で隣に座ってたから仲良くなった。
新歓は2年が準備するのだけど、試験もあるから中々忙しくて大変。
「懐かしいなー。去年、ミツ隣やったもんな」
「あ、覚えてますか! 以来先輩にセクハラされる日々ですよ」
「セクハラなんてしてないやんー。ミツが好きなだけやねん」
…やめてください、と言いそうになった。久重先輩はいつも軽い冗談で好きだとか可愛いとか言う。
ちょっと笑顔がひきつってしまいつつ、はいそうですか、と返した。すると頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でられる。
「いいやん、その証拠に可愛がってるし! 新歓準備するなんて大人になったなー」
「ちょっと先輩、髪ぐしゃぐしゃになるんですけど!」
「なにセクハラしてんすか、新也先輩」
半分嬉しい、半分本当に髪が乱れて困っていた時、後ろから声がした。
はっと振り向くと、やはり、桐生くん。
冷やかすように口角を吊り上げて、こっちを見ていた。気のせいか目が笑っていない。
久重先輩はぱっと私の頭から手を放し、桐生くんに駆け寄る。
桐生くんは少し息を切らして、ジャージ姿にランニングシューズを履いていた。
「おぉ、凪砂。お前その恰好、走っとったん?」
「そっす。先輩今から走るんすか?」
「あぁ。…あっ、紹介するわ、俺の彼女」
「先輩、嘘つかないでくださいよっ」
桐生くんと私が仲良いことを知らない久重先輩。私を使ってついた嘘が、嘘だと分かっているのが、悲しい。
桐生くんは肩を竦めてみせた。
「俺、コイツ知ってますよ」
「え、マジで!? 言ってくれてもええやん!」
「なんなら2人で宅飲みできるくらい仲良いっす」
「マジで!?」
「せっ先輩!! 冗談ですから!!」
半笑いの桐生くんを、先輩の後ろから気付かれないように睨む。余計なこと言ったら許さない。
なんや知り合いやったんかー、と笑う久重先輩は、桐生くんに耳打ちした。
「あ、さっき頭撫でとったの春美には内緒な。アイツすぐ怒んねん。彼女でもないくせに」
「分かってますよ。春美さんと先輩の関係、正直誰が見ても意味わかんないですけど」
なんか彼女か元カノポジションすよね、と桐生くんは返した。
マネージャーだろうけど、久重先輩とどんな関係なんだろう。
「やんなー。アイツはよどっかで彼氏作ってくれんかなー」
「先輩がなってやりましょうよ」
「俺、束縛強そうなの嫌やもん」
とりあえず俺も部室行くから一緒行こーや、と久重先輩は桐生くんと歩き出す。どうやら部室にランニングするための着替えを置いているらしい。
ジャージで着て帰ってもいいんじゃないですか、と言ったけど、汗かいたらとりあえず着替えたいし、どうせ荷物は置くし、と返ってくる。




