第102話
「うん。サッカー部で飲んでるから、そのまま来るって」
「……ってことは、凪砂くんが…」
「いるのか聞いてみようか?」
「ちょっとストップ。それは私が凪砂くん好きだって言ってるようなもんだから!」
「じゃあミツと駅まで行くって言うね。そうすれば桐生くんも来るんじゃないのかな」
「だっ、だから來未ちゃん、それはいいから…!!」
お願いだからやめてください、と腕にしがみつく。來未ちゃんは素知らぬ顔で「ミツといるって返すね」と返事する。
「…ご、ごめん、駅に彼氏さん来てなくても置いて帰っていい…?」
「イヤ」
きっぱりと、明らかに凪砂くんを理由に答える來未ちゃん。この子を敵に回してはいけない。
「で、でも…ほら…久重先輩とか、見られるかもしれない、し…」
「寧ろ久重先輩が諦めて丁度いいんじゃない」
「來未ちゃん! その腹黒しまいなさいよ!」
冗談で來未ちゃんのお腹を軽く叩く。來未ちゃんは「あ」と返事をする。
「桐生くん、来るかも。ちょうど飲み会終わったって」
「本当に帰っちゃだめ…?」
「ミツ、好きな人に会いたくないの?」
凪砂くんの名前じゃなくて私が凪砂くんに抱く感情を表現されて、ぼっと顔が赤くなる。來未ちゃんは少し笑った。
「ミツ、残念だったね。今日お酒あんまり飲んでないから、桐生くん引っかけられない」
「何でそんなこと言うの!? 私お酒飲んでても男の人引っかけたりしないじゃない? 來未ちゃん私に恨みでもあるの?」
「しいて言うなら、遅い展開に私も飽きてきたって感じ」
「やっぱり私に恨みあるの?」
淡々と厳しい口調で話す來未ちゃん。元々がちゃんといい人なんだと知らなかったら本気で苛立つような言葉だけど。
「それに、飲み会やってたのひとひららしいよ。帰り道じゃん」
「…もう分かったわ。大人しく來未ちゃんと駅で待つわ」
はぁ、と溜息をつくと、來未ちゃんは満足げに頷いた。
駅の改札口近くまで行くと、数人の男の人達がいた。その中の1人が振り向くと、來未ちゃんが手を振る。
「あれ、タクト」
「あ、はい」
淡々と物のように言われた。來未ちゃんは彼氏さんに対してもこの態度を崩さないのね。
そして、集団の中にポツンと見える、凪砂くん。
「新歓お疲れ」
「うん、ありがとう」
短い遣り取りをする來未ちゃんとその彼氏さん・タクトくん。サッカー部だから色が黒いのは凪砂くんと同じで、ただ髪は黒くてそんなに短くはなかった。細い目がチラッと私に向く。
「あ、どーも、サッカー部の瀬田です」
「あ、こんばんは…光宗です…」
礼儀正しく頭を下げてくれた瀬田くん。頭を下げると、ふん、と凪砂くんが鼻をならすのに気付いた。




