第10話
あれ以来、私と桐生くんは1週間に最低2回は夕飯を一緒に食べている。
部活が終わった後とか、家庭教師のバイトが終わった後とか…とりあえず、何も用事がなくて、11時を過ぎてなければ来る感じ。
いつもテレビを見て、偶に夕飯を一緒に食べて、お喋りして、それだけ。じゃあな、と桐生くんが玄関先で手を振るのがちょっと寂しいのは絶対に言えない。
凪砂くんを、忘れていないのは、否定できない。高校時代はずっと好きな人ができなかったし、恋愛と言えばいつも頭のどこかに凪砂くんの影があった。
大学生になって、初めて男の仲良い先輩ができて、初めての生活に、頭の片隅にいた凪砂くんは忙殺されていった。そのうち、一番仲の良い先輩を好きになった。
そんな時に、桐生くんが現れてしまった。
あの初めての学部飲みをした日、2次会しようと言われ、顔が分からなかった申し訳なさと、初恋の懐かしい気持ちが相俟って断れず、2人で2次会をした。
その時に、サッカー部と聞いて、ぽろっと言ってしまったのだ。久重先輩、と。
久重先輩と言った私の声は、多分上ずってたのだろう。桐生くんの眉が跳ねて、口角が吊り上った。その瞬間、バレたと理解した。
もう桐生君のことは何とも思ってないとアピールしたいのもあったし、自分から言った。貴方の先輩でもある久重先輩が好きなんだ、と。
以来、桐生くんは時々久重先輩の話をする。でも、私と桐生くんが中学の同級生だなんて、久重先輩は知っているのだろうか。




