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絵葉書

作者: 東椰子実


古本屋に本を買いに行くと


時たまとんでもないおまけが


付いてきたりする。


それが、栞がわりに本と本の間に挟まった


押し花ならまだしも


光沢なカメ虫だったりすると


そこは開かずの間になる



また、○○さんへ


そう書き綴った作者自身の手書きsinが


たったの105円で売られてたりもする 。


ブックオフどんとこい、だ





昔買った文庫本の中にも


前保有者の忘れ物が挟んであった。


表にゴッホのひまわりが描かれた


一枚の葉書で


裏には端整な文字が並んでいた




智美さんへ



お元気ですか?高山から電話ありがとう


こちらはバイトがすごく忙しい


今はグループ展と展覧会のため


スケッチとパネル製作に


没頭しています


また君に会いたいです


この間はpresentどうもありがとう


今度は僕が大好きな本の一冊を


君に贈ります



3月7日 高井一義





挟まっていたその本というのが


灰谷健次郎の代表作『兎の目』だったりで


その贈った本がブックオフの棚に


乱雑に置かれてたりして


要するにこれは…この人




振られたのか。



勿論、たまたま絵葉書だけこの本に


紛れ込んだって線もあるけれど


私は前者に懸ける 。


その方がなんかいい


誠に失礼ながら


私は爆笑していた 。



あーこの人好きな人に自分の


大好きな本を送ったんだ 。


あーそれで手紙ごと売られたんだ 。



…可哀相


何とも意地の悪い性格だ。


自覚はしている。


散々笑った絵葉書は


結局レターボックスの中へ。





数年たって引っ張り出してきたのは


つい一昨日のこと


久々に読み返してみて思ったが


グループ展に展覧会、スケッチ、パネル


そんな言葉から絵の道の人だと分かった




それじゃあもしかして検索掛けたら


名前ヒットするのでは?



携帯片手に手持ち無沙汰


半分無造作に検索キーを押した


きっと載っていても昔の個展とかで


名前がちょろっと


載ってたりするだけだろうな


そう思っていたのに


出てきたのは創画会会員では


なかなか名の知れた画家だった


それも日本画家の 。



あぁ…だから飛騨高山だったのか


手紙の内容を改めて実感する


その人は幾度かの個展に


作品を出品していて


その何回かは賞を授賞している


昭和58年生まれ、


京都教育大学の 卒業生らしい 。


またその後、奈良の大学院もでている 。


今は絵を描く傍ら 子どもたちに


日本画を教えているそうな


今年で54歳


ターニングポイントは過ぎている 。



ふーん


いたんだ、ちゃんと




大したヒットは掛からないと踏んでた


私にとってこれにはちょっと驚いた 。




そこで気になってくるのは


やっぱりこの本を売った当の本人


智美さんだ 。


同じくそれにも検索を掛ける


【 高井一義 智美 】


これこそ馬鹿なことをやってるな


そう思った 。


もし、これでもし…


高井智美…とでも載っていれば


それで満足?


本当に?






…結果的にいえば 、


引っ掛からないだろうと思っていた


名前はちゃんとでてきた 。


それも、高井さんと同じく創画会のメンバーだった 。



智美なんて名前は他にもたくさんいる


それが、さとみと読ませるんだったら


もっともっとたくさんになる


だからこれは全部、只の想像だ。






その智美さんの姓は


藤井になっていた


この人が手紙の女性だって思ったのは


ひとつに歳だ。


彼女は現在53歳、高井さんのひとつ下



もう一つ、彼女もまた京都教育大学の


卒業生だったのだ。


それも日本画の


あの時、あの場所で


二人は先輩後輩関係だった。


その後、京芸の大学院に行った


智美さんは、今ある大学の 講師をしている。



最終的に二人とも


形は違うけれど


教師になっていたのには驚いた。


そうすると


何となく送った本が


何故あの本だったのかが


ちょっと分かったような気がする。



あの時代にたしかにいた二人は


少し交わりながら


今も別々の場所で一緒に歩いている。








ところで高井さんの日本画は


青と緑色が静かに動いた綺麗な絵だった。


一度見に行ってみようかな


その時あの葉書を返そうか



迷ったがやめておくことにした 。



知らぬが仏、云わぬが花


あのヒマワリの様に







※ 一部、団体個人名は変えています。

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