ゼネルディア編 後編
第3話。
週一の更新なのに、疲れを感じ始めてます…
場所は変わり、ここはぜネルディア城の書物庫。
ここには、王族とゼネルディア城建国の歴史だけじゃなく、大陸南部に生息する種族の様々な事柄が書いてある本がある。
ここまでの書物を保管している、書物庫はそうそうあらず、貴重な本も幾つもある。
よって、余程のことがない限り、他人が閲覧できることはなく、また盗み見されないように衛兵が交代で二十四時間体制で、門番をしている。
今も、扉の前には衛兵が二人、仁王立ちをしている。
今は人がいない、だがその人がいない部屋から、声がする。
「えっと……あった!『ゼネルディア王族の秘宝と歴史』!これだ、これだ」
その声は本棚の前からするもので、だがそこには誰もいない。しかし……
「魔法解除」
その言葉とともに、シドが突如として、その場に現れた。
「へへへ。いやあ、透明化の魔法はこういう時に便利なんだよな」
シドは本を手に取り、バラバラとめくる。書物庫の中は完全な闇なんだが、シドはそんなことは関係ないらしく、動く本のページに合わせて、目が忙しく動く。
やがて、
「お、見つけた」
目当てのページを見つけた。指でなぞりながら、読んでいく。
「七人の英雄の一人、『ジルガ・ゼネルディア』。彼は七千年前、起こった、現界を舞台とした霊界の三強魔族と聖霊の戦争を静めた英雄の一人にして、この国を興し、聖霊王、《アルディイン》を封じる七つの宝鍵を守る番人となった。
我らゼネルディアの王族はそれを守り続けなければならない、それが悪しき者の手に渡った時、ハルバルドは目を覚まし、そして魔族皇帝、《バルカ・ガレイ》も目を覚まし、そして世界は再び、戦火に包まれる……」
本を閉じた。これだけでよかった。
「そうか……城に結界が張られているのは、これを外に出さないためなんだ……」
その時、城中を揺るがす轟音が轟き、続いて城が大きく揺れる。
「まさか、あいつが!?だけど、動力炉を叩き壊したのに、こんな早く修理なんて……」
セリフをそこで一瞬切り、そして思い当たったように、目を見開く。
「そうか、新しい人形を!くそっ!」
シドは本を放り出すと、書物庫の扉を蹴破り廊下に出た。
廊下はてんやわんやの大騒ぎで、誰もシドが書物庫から出てきたのを気にしてはいなかった。それはそれで、ありがたいのでよしとする。
シドは衛兵が走っていく方を見やり、そして自分も走り出す。
ただ、その速度が異様なまでに速く、雪崩のように動く衛兵を一人、二人とあっという間に抜いていく。
騒ぎの元凶はどうやら、正門から堂々と入ってきたらしい。
中央階段の間は衛兵が何十人と立ちふさがり、元凶に向けて槍の穂先を向けている。
その元凶、すなわちロッソの背後には、妙な巨大な影がある。
それが何なのかはただの衛兵では、見抜けないがシドは違った。
「ま、まさか、それは!?」
ロッソが手を動かす。すると、巨大な影は突如として両脇の何かが伸びた。まるで、翼を広げたように。そして、その翼らしき物を羽ばたかせる。
途端に風がおき、周りにいた衛兵達を吹き飛ばした。
「うわあああ!!!」
衛兵達はそれぞれ、壁やら同胞に激突し、気絶した。鎧を着ているから衝撃もそれなりにあるということはわかるが、だからって一撃で気絶とは情けない。
衛兵を吹き飛ばした、翼を持った巨大な影が姿を露にする。
影はまるで、翼竜のようだった。トカゲのような頭と、鋭い爪が生えた両手。口元にはずらりと牙が並び、赤い鎧のような物をつけた、光る緑色の皮膚。
だが、その皮膚の見える所には、人形特有の、繋ぎ目の線があった。
これで、はっきりした。
「間違いねえ……近接格闘、遠距離砲撃、飛行、耐久力、全てにおいて全ての人形を凌ぐ、究極の人形、竜型人形!!!ロッソ!おまえ、何処でそんな物を手に入れた!!!」
階段から身を乗り出し、声を張り上げる。ロッソはその声が聞こえたのか、シドを見上げる。だが、その目は明らかに普通じゃない。
「ロッソ……おまえ……」
ロッソはまるで、獲物を仕留めたも同然の余裕の笑みを浮かべると、腕を振る。すると竜型人形が体を浮かせ、シドに突進する。
「ちっ!完全に、目がイッてやがる!」
ぼやくと、階段の手すりを踏み台にして、突進を交わす。いや、交わしたつもりになってしまった。
手すりに激突したその刹那、竜型人形が手を伸ばして、シドの足をつかむと逆さ吊りの状態にする。そして、空いている手でを殴りつける。
「いっ!だっ!がっ!」
シドは途切れ途切れの悲鳴を上げ、軽く投げられ、続いて体を力いっぱい鷲づかみにされる感覚と、体が上昇していると自覚する。そして、城の天井を突き破る。
「ぐがあ!!!」
だが、それだけでは終わらなかった。敵はシドと自分の体を入れ替えると、自分の手につかんでいるシドを離し、そして拳を入れて体を地に叩きつける。
城の床が見事に窪み、その窪みの中心部でシドは頭をさする。
「いって〜〜〜……流石、最強の人形。近接格闘も半端じゃないな」
大して、ダメージを受けずにピンピンとしていた。だが、立ち上がろうとして空を見上げた瞬間、目を見張る。
「げえっ!!!」
敵は人形に物を言わせて、体中から炎の球を一斉に放ち、それらをシドへ向けて落とした。
「ひゃはははは!!!死…」
「ロッソ!?」
勝利を確信し、高笑いをあげるロッソはそこに響く、少女の声でピタリと止まった。
「アル?」
ロッソが目を向けると、夜着のまま手すりに捕まる、愛しい人の、アルの姿があった。
「アル……」
だが、ロッソの竜型人形が放った炎の球の軍勢は止まらず、全てシドに直撃した。
「シドっ!!!」
アルが悲痛な叫び声をあげる。そして、ロッソを見据えた。
「ロッソ!貴方、一体どうしたの!?貴方は確かに乱暴なところもあるけど、貴方は人を絶対に殺さなかったはずよ!!!」
叱声にロッソの頭が鳴る。
「ぐうっ!!!」
ロッソは痛む頭を抑える。
その時、旋風が吹き荒れ、煙が消し飛ぶ。そしてその場には、自らの周りで風を渦巻かせるシドが悠然と立っていた。
「魔法の風、螺旋の右!」
叱声が響き、シドの周りを渦巻いていた風が、シドの右手に集まり、小さな竜巻を作り出した。
その腕をブンブンと回して、シドはギロリと宙に浮かぶ、竜もどきを睨みつける。
竜もどきもまた、シドを睨みつけ歯を出して唸る。
やがて、シドと竜もどきがほぼ、同時に対峙する相手へと向かう。
空中でシドと竜もどきが交差する。
その間に、アルがロッソの元へと駆け寄り、肩を揺する。
「ロッソ!どうしたの!?ねえ、ロッソ!」
「う、あ、ぐ……ア、ル」
「ロッソ……目を覚まして、お願いだから……ロッソ」
アルはロッソの頬を撫でながら、優しく語り掛ける。
「ア、ル……」
その時、何かが地に叩きつけられるような音がして、アルは思わず振り向いた。
そこにはシドがいた。苦戦しているらしい。
「くっそ〜……流石だな、耐久力も半端じゃない…って、またあ!?」
その言葉に見上げると、敵は体中から光を発している。どうやら、先ほどの炎の球の一斉射撃をするつもりらしい。
「ロッソ!目を覚ましなさい!!!ロッソ!!!」
「ア、ル…」
敵は既に準備が完了したらしく、周りには炎が輝き、もはや肉眼では見れないほど眩しい。
そして、敵は今にも炎の球を放つと言いたげに、咆哮をあげる。
「ガアアアア!!!」
「ロッソ!!!」
ロッソは頭を抱えて、悶える。
俺は……俺は……ゼネラルのあの、笑いが瞼の裏に浮かぶ、そしてロッソは覚醒した。
「俺はおまえの人形じゃねええええ!!!」
叫び声は竜もどきに、隙を与える。その好きに漬け込まないシドではなく、地面を蹴って跳躍する。
「これで、終わりだああ!!!」
風が渦巻く拳を敵の動力炉、すなわち胸の中心に突き立てる。
拳は楽に貫通し、敵の周りを包む、赤き光が瞬く間に消えた。
そして、敵は普通の人形と同じように、球体に戻り、地面に転がった。
「いよっと」
シドは体を回転させながら、地に降り立つとうずくまる青年、そしてその青年を心配そうに見つめる、少女。
二人を見て、微笑を浮かべた。その時だ。
「う、う〜〜〜ん……」
一人の衛兵が意識を取り戻し、首を振る。そして、ロッソを見つけると、声を張り上げた。
「ああっ!!!貴様はロッソ!貴様、また城への侵入を!もう、許せん!いい加減……」
「黙りなさい!」
アルの鋭い執政に、衛兵はすくみあがった。大した威圧感だ。
だが、当の彼女はそんなことは気にせず、熱心にロッソの言葉に耳を傾ける。その顔は大真面目の顔だった。
シドも不審に思い、二人に近づいてみる。
すると、聞こえてきた、ロッソの弱弱しい、今にも消え入りそうな声が。
「早く、早くしないと宝鍵が……」
驚愕。シドにはそれしかなかった。だが、すぐに意識を取り戻し、アルに聞いた。
「おい!この城で一番貴重な物を保管するのは何処だ!?」
「え!?えっと、地下の宝物庫ぐらいだけど、なん……」
皆まで言えなかった。なぜなら、地下から轟音とともに何かが床を突き破ってきたのだ。
衛兵も含めた、四人がそこを向くと、アルが一番先に声をあげた。
「父さん!」
そう,床を突き破って出てきたのは、アルの父親であり、この城の城主であり、大国ゼネルディアの王だった。
すぐさま、全員、王に駆け寄る。
「父さん!父さん!」
何度も、アルが揺するが、王は一向に目を覚まそうとしない。
歯を食いしばり、シドは王が出てきた穴の中に飛び込む。
例のごとく、体を回転させて、そこに降り立ち、顔を上げる。
そこには黒色のシルクハットをかぶり、黒色のスーツを着て、片方の手には黒いステッキを、そしてもう片方の手には、鍵のような物を浮かせた、何ともおかしな男がいた。
「おやおや、これは。どうやら、油断してしまったようですね。暴れ過ぎてしまいました」
男は嘆かわしげに首を振り、やや、シドを見つめ、声を上げた。
「おお!!!これは、これは。セルゲイ様の義弟のシド様ですか。いやはや、お噂はかねがね……」
「セルゲイを知っているのか!?」
男は人差し指を立てて、横に振る
「知っているなんてものじゃありませんよ。いつも、ご利用させて頂く常連様でございますとも。あ、申し遅れました。私、武器屋ファクトリーの店長、兼、工場長をやっております、ゼネラル・ハイドン・レイフォードという者です。以後、お見知りおきを……」
名乗ってはいるが、シドはよく聞いていなかった。
「おまえは、セルゲイを知っているんだな?」
男は、ゼネラルは唇を耳まで裂くようにして笑う。
「そういうことになりますかねえ……」
「居場所を吐いてもらうぞ!!!」
終わるか終わらないかのうちに、シドが風のごとく疾走する。そして拳を振りかぶる、だが……
「なにっ!?」
シドの拳は確かにゼネラルに当たった、ように見えたが拳はゼネラルの体をすり抜け、その体はまるで霧を殴った時のように切れたかと思うと、すぐに元に戻った。
「くそっ、魔法映像か!何処にいる!」
ゼネラルが、ゼネラルの姿が映る映像が口を開く。
「ほほほ。私の本体は既に遠い所ですよ。しかし……貴方とはまた逢うことになるでしょう。それまで、ごきげんよう。ほ〜ほっほほほほ……」
笑い声を残して、ゼネラルの映像は消えていく。
「あ、待て!!!」
しかし、時既に遅し。ゼネラルは見る影もなく、消えていた。
くそ……
屈辱と敗北感が襲ってくる。手玉に取られた。ものの見事に。
「くそ……くそ〜……くそったれがああああ!!!」
シドの咆哮が木霊した。
それから、数日。
シドはゼネルディアに留まり、次の宝鍵の在り処を調べるのに、飛び回った。
ゼネルディアの王はやはり、手遅れで葬儀はゼネラルの強襲から、二日経った日に行われた。ただ、王の死を嘆く国民は皆無だった。
王は貴族ばかり贔屓していたため、国民からの信頼を完全に失っていたのだ。
おまけに王が殺されたとなれば、他の種族にかぎつけられ、いつ強襲されるかもわからない。
ガタガタになってしまった国を直すため、アルは大忙しだった。
そんな中、やっとゼネラルの次の目的の場所を推定できた。
「で?その場所ってのは?」
シド、ロッソ、アルの三人は書物庫に集まっていた。
シドは持っていたやたらと分厚い本を、バラバラとめくり、あるページでとめた。
「ここだ。いいか?宝鍵というのは、聖霊王のハルバルドを封印する鍵で、それは全てで七つある」
「その一つが、この城に封じられてたのよね」
アルの確認に、シドがうなずく。
「そうだ。そして、次の宝鍵の在り処もやっとわかった。多分あいつも、ここに行くはずだ」
「で?それは何処なんだよ。もったいぶってないで、早く言ってくれ」
ロッソが急かす。後でわかった話だが、ロッソはゼネラルに催眠術のような物をかけられ、宝鍵を手に入れるための陽動として、使われたのだ。
ロッソはそれを根に持っている。
「はいはい。その場所っていうのはな、ここ、ゼネルディアより南東の人狼の里、《ハウディロイ》だ」
「ハウディロイ……また、めんどくさそうな所だな〜。人狼て言えば、ずる賢くて有名な怪物だろ?」
「それは狩に関してだけよ。人狼というのは、尊敬に値する物には、絶対の敬意をはらうらしいわ」
「まあ、どうでもいい。さっさと準備して、明日にでも行こうぜ」
だが、そこでシドが、
「残念だが、ロッソ、おまえを連れて行くつもりはない」
その場が凍りついた。
一拍置いて、ロッソが声を張り上げる。
「なんでだよ!!!俺はあいつに借りを返さなきゃ……」
シドは肩をつかみロッソを黙らせると、耳に顔を寄せて、耳打ちする。
「よく、考えろ。今、アルを一人に出来るのか?」
ロッソは驚いたように、目を見開いた。
シドが続ける。
「ロッソ。今、ゼネルディアは大変な状況なんだ。ましてや、アルはこの国の姫だぞ?いま、アルのそばにいて、アルを支えられるのはおまえだけなんだ。それを自覚しろ」
アルを見つめ、ロッソは表情を曇らせた。シドはその肩を叩き、更に低い声で告げた。
「大事にしてやれよ。俺みたいになっちゃダメだ」
その時、ロッソは確かに見えた。
悲しそうなシドの顔を……
ロッソはシドの顔をみつめ、そして力強くうなずいた。
シドもまた、嬉しそうにうなずいた。
その翌日、シドはゼネルディアを出ることになった。
「ありがとう。でも、本当にいいの?報酬はなしで?」
見送りに来たアルが、声をかける。
シドは「ああ」と短く返事をした後、アルとロッソの二人を見つめ、短く言った。
「二人とも、仲良くな」
その言葉にアルとロッソは互いを見合わせ、そしてお互いに笑顔を向けてくれた。
シドも嬉しくなり、笑いながら三人は別れた。
シドは歩く。次の目的地、ハウディロイへと向けて。
「よ〜し。待ってろよ。セルゲイ」
空を仰ぎ見ながら、言った。
作者「ええ〜、ゼネルディア編も終わりましたね」
シド「ところで、何で、俺がここに呼ばれてるんだ?」
作者「章の最終話では、あとがきにそれぞれゲストを呼ぶつもりだったんですよ。今回はシドさんです
シド「なるほど」
作者「というわけで、質問。まず、シドさんの出身地と年齢と身長と体重を教えてください」
シド「出身は北大陸の辺境の村、ソルだ。歳は二十二で身長は百九十二、体重は七十六キロだ」
作者「ふむふむ…それでは、次に魔法は何処で覚えたんですか?」
シド「体術の師匠の友人に教えて貰った。ただ、きつい人でな〜…あの時も…」
作者「あ、あら?シドさんの思い出話が始まっちゃった。まあ、これ以上は話してくれななさそうなんで、今回はここまでにしましょう。それでは」