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ヴァラヒア  作者: 誰か
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第三話

 耳障りになるほどにでかい機械音で目覚める。

 室内はいくつもの音が重なり合い、歪なメロディーを奏でていた。それらを一つずつ消していく。

 身体が重い。まずそう思った。

 閉め切ったカーテンの端から見える朝陽。カーテンを開ける事はせず、億劫そうに冷蔵庫からおにぎりを取り出し電子レンジにかける。

「ふぁぁ~~」

 大きく欠伸をした後、チンと鳴った電子レンジからおにぎりを取り出す。

 食べているとおにぎりをぽろりと手から落としてしまう。

 試しに手を握ってみるが上手く力が入らない。朝に弱すぎる自分の体質に嫌気が差した。

 昔はこんな事なかったんだが。

 しょうがないので、床から落としたおにぎりを拾い口へと運ぶ。

 朝飯を食べ終え身支度を整えてから、黒い全身を覆うようなコートに身を包み家を出た。


 空は雲ひとつなく太陽も遮るものは何も無い。極力朝陽を浴びないように学校へと向かう。

 学校へと近づくにつれて学生の数が多くなる。この街では学校は一つのブロックに密集しているので当然だが。

 明らかに日本人じゃないのも見える。むしろ日本人の方が少ないくらいだ。

 各国からヴァンパイアが集められているので、ヴァラヒアはかなりグローバルな街になっている。

 居住区も日本人街などで分けられ、学校も元が何人かによって分けられている。無論俺が通っているのは日本人学校だ。一部例外もいるが。

 学校へと向かっていると後ろにひっそりとした気配を感じた。

 気配は徐々に近づいていてきており、俺の後ろをぴったりと付いてきている。

 耐えきれずに振り向くと、そこには俺と同じように黒で身を包んだ、見知った顔があった。

 黒いフードから微かに金髪の美しい髪を覗かせる。


「おい、どうして無言で付いてきてんだ?」


 振り向いた俺に驚いたのか、少女はびくっと身を震わせた。そこに昨日の様な元気さは無い。


「話しかけようとは思ったんだけど、なんか何もする気が起きなくてさ…」


「あー、分からんでもない」


 そういえばコイツも朝弱かったな。かくいう俺も身体が重い。


「よっす」


突如横からバンッと肩を叩かれた。強くはないはずなのに足に力が入らずよろめいてしまう。


「なーにやってんだ白銀? そんな強く叩いた覚えは無いんだが」


「黒木…お前…俺が朝に弱いって分かっててやってんだろ…」


「さぁな~~、ミラもおはよう。」


「うん…おはよう…」


「相変わらず朝は元気ねぇなお前ら」


 黒木は俺やミラと違ってコートなど羽織っておらず至って健全な男子高校生といった風貌だ。

 特別朝に弱いのは俺とミラくらいで、大抵のヴァンパイアは朝でも平気らしい。


「ヴァンパイアだからって、朝に弱いとかありえねーわ。そんなんでサボるとか許さんよ。サボるなら俺も連れてけ」


「実際ヴァンパイアになってから朝に弱くなったんだが。サボるとしてもお前は連れてかねぇよ」


「なんでだろうねえ?」


「嘘つけ、お前はなる前から朝弱かっただろ」


 ミラにすかさず突っ込みを入れる。

 なる前から見てきたが、コイツは元から朝に弱く遅刻の常習犯だったはずだ。


「なる前って…、そういやお前らは外から来たんだもんな。」


「まあな。」


 外とはヴァラヒア以外からという事だ。

 今やこの街の人口の多くは、ここで生まれた者ばかりで、この街を出た事が無い者も多い。

 ヴァンパイアの子供もヴァンパイアになるため、学生の大半はヴァラヒア生まれである。

 はぐれヴァンパイアもここ十年滅多に見られなくなり、ヴァラヒア送りにされる者は稀だ。


「で、外ってどうよ?」


「どうって…、大してここと変わんねぇよ」


「そうだよ。こっちの方が楽しいくらい」


「んなもんかね。あーあ、俺も一回くらい外に出てみてぇな」


 外に出たら即通報されるぞ、という言葉は口に出さずに呑み込んだ。夢は壊さないでおこう。

 三人で歩いていると、学校の前で見覚えのある二人が突っ立っていた。

 その後ろには何人もの男子が群れをなしている。


「じゃあな、お前ら!」


その姿をみるや否や黒木は逃亡を図る。


「逃がさねぇぇぞ!!」


「皆さん今こそ団結する時です。あのリア充に正義の鉄鎚を!!」


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 雄たけびが校門に木霊する。どっから、あんな人数を集めてきたんだか。

 黒木は校門から、それはもう陸上選手なんじゃないかという程のスピードで消えていく。

 黒木を追い地響きを鳴らして、消えていく男たち。


「大変だなぁ黒木君」


「お前のせいだろうが」


 やっぱりコイツは小悪魔だ。

 馬鹿共は放っておいて俺とミラは教室へと向かった。


 教室に入ると丁度チャイムが鳴った。これで、あの馬鹿共の遅刻は確定だ。

 素早く席に着き担任の到着を待つ。

 ガラッと扉を開け担任が入ってくる。手には教師がよく持っている黒いノートらしき物。


「朝のSHRを始めます」


どうでもいい連絡が大半なSHRを適当に聞き流し、終盤に差し掛かったところで担任が口を止めた。


「あっ…、そういえば今日の昼くらいには皆さんにサプライズがありますので楽しみにしてて下さいね。これでSHRを終わります」


 サプライズ? どうせ、ろくでもない物に違いない。宿題か何かだろう。

 それよりも今の問題は一時間目のゴリラの歴史だ。勉強はしてきたが、自信はない。

 頭の中で必死に昨日やった内容を反芻する。

 一時間目開始のチャイムが鳴り、今か今かとゴリラの登場を待った。

 しかし、扉を開け入ってきたのはゴリラ――ではなく、担任だった。


「山口先生はそこの遅刻してきた人たちを指導するので自習になりました」


 指さした方向にはぽっかりと空いた席。

 内心ガッツポーズする。

 今回ばかりはあいつらに感謝しなきゃな。

 クラスの中からも、ちらほらと歓声が聞こえる。


「はいはい、何故歓声を上げていたかは聞きませんので少し静かに」


 手をパンパンと叩きクラスを静める担任。


「えー、皆さんお待ちかねのサプライズですが予定より早まって今からになりました。本当は朝にする予定だったんだけどね」


 いや待ってねぇよ。口には出さないが、これから宿題を出されるのかと思うと気が滅入る。

 そんな俺の考えはあっさりと裏切られた。


「何と! 転校生がこのクラスに来ます。じゃあ入ってきてー」


 という担任の言葉によって。

 ガラッと扉を開け入ってきたのは長髪の冷たく見下した眼の不愛想な少女だった。

 ふと既視感を感じる。その眼はどこか見覚えがあった。

 いつだっただろうか。遠い記憶を思い返す。

 思い出すのはここに来たばかりの自分。あの頃の自分はヴァンパイアを化け物だと見下していた自分。そして自分がそうなってしまった現実を受け入れていなかった自分。

 ああ、そうか、あれは昔の俺の眼と同じなんだ。











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