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ギレイの旅  作者: 千夜
3章
98/561

盗賊ギルド1

 獅子は利香と拓の宿で夕食を取った。かなり上等な宿で、部屋の広さや出てくる料理の質が違う。優勝祝いだと利香と拓は言う。

獅子に薬の味はわからないが、利香が食べていて、拓が何も言わないのなら大丈夫だろう。


 夜遅くに自分の宿に帰った。儀礼はまだ戻っていないようだった。

玄関を入ると、「お帰りなさい」と宿の娘が水を持ってきた。この時間、酔って戻るものが多いのだろう。サービスのいい宿だ。

獅子はコップの水を飲み干すと部屋に戻り、今日の疲れを取るため眠りについた。


 真夜中。そっと歩く気配がドアの前で止まった。

昨日までは儀礼が夜中まで起きてたから気付かなかったが、本当に来た。

「なんの用?」

ドアをこちらから開けてやる。驚いて飛び上がる娘。

「あ、あの儀礼さんは……」

娘は顔を青くして、そう言うのがやっとのようだった。

獅子を見る目は化け物を見るように驚愕と怯えに支配されている。

(さっきの水か……)

心当たりに気付き、獅子は娘に軽蔑の視線を向ける。

「あいつはまだ戻ってねぇよ。こんな夜中になんの用だ」

「す、すみません。ただ心配だったもので……」

「睡眠薬の効果がか……?」

睨み付けながら言うと、

「ごめんなさいぃ!」

と涙を溢れさせ、一目散に逃げていく。

「あー」

獅子はぼりぽりと頬をかく。

別に泣かせるつもりではなかったのだが。


 儀礼が帰ってきたのは明け方だった。鍛練のために獅子が起きたところだった。

「遅かったな」

ふあ~、とあくびをしながら獅子が言う。

「ん、ごめん。なんか手間取って。午前中にはチェックアウトするから準備しといて」

眠そうに言い、儀礼は獅子に剣を渡す。

「おう、サンキュ。もう終わってる。怪しげだしな、この宿」

上着を羽織り、靴を履く獅子。

「そっか、なら僕はひと眠りするよ」

鞄に荷物をまとめると儀礼は鞄の中の水筒からお茶を注ぐ。

喉が渇いていたのかごくごくと飲み干してゆく。

それを横目に剣を持ち、外へ出ようとした獅子。

突然、ゲフっと儀礼がお茶を吹く。


 ごほっごほっと咳込み、鞄をあさり始める。

「やべ、獅子……」

弱々しく呟くと儀礼はそのまま倒れた。

「おい! 儀礼? 儀礼!?」

様子がおかしい事に気付き、獅子は慌てて儀礼を床から起こす。顔色がない。ベッドに横にする。呼吸はあるが浅く、脈も弱い。

「どうした?!」

言ってから、床に転がる瓶が目に入った。

『睡眠中和剤』とラベルがはられている。

「あいつか……!」

怒りがわいてくるが今はそれどころじゃない。

瓶から薬を出すが、どれ位飲ませばいいのかもわからない。

とりあえず一粒口の中へ押し込む。錠剤のせいか飲み込んでくれない。

「水!」

慌てて井戸から水を汲む。階段を上がる時間がもどかしい。コップに錠剤をいくつか溶かし、無理矢理口に流し込む。

「飲め! 飲め儀礼!」

獅子は怒鳴るように言った。

「ごほっごほっ」

儀礼は少しむせてからなんとか薬を飲んだ。


 コップ半分飲み干すと儀礼はようやく目を開いた。

「サンキュ、獅子」

まだ朦朧としているのか視点は定まらない。確かめるように獅子の服を握る。

「大丈夫か? 本当に?」

こくこくとうなずき、儀礼は残りの薬を半分の水で無理やり飲み込む。

儀礼を心配している獅子だがその中に怒りが燃えているのがわかる。

「待って……獅子。ギルドに掃討依頼……受けて……」

途切れ途切れに言う儀礼。

「なんだ? こんな時に仕事か!?」

儀礼に怒鳴りつけていた。

「娘は初犯……責めないで。親と、……ギルド……頼……む。ごめ……ねむい」

儀礼は眠ったようで異常はないようだ。


 獅子は早朝のギルドに向かった。

「お待ちしてました」

腰の曲がった老人が外に立っていた。

「団居さんは?」

「寝てる」

「そうですか。こちらが依頼です」

老人が紙を手渡す。

『盗賊ギルド掃討』と書いてある。

「こちらにサインを」

老人の示す書類に署名する。

「ではお気を付けて」

老人はギルドに入った。

「盗賊ギルドなんて聞こえはいいがようは泥棒のたまり場か」

依頼はその壊滅と登録リストを手に入れること。

ぽりぽりと頬をかいた後、「拓を呼ぶか」とつぶやいた。


 拓と獅子、二人で盗賊ギルドへと殴り込んだのはそれから1時間後だった。

大量の書類を分別するために拓に援護を頼んだのだ。

掃討は30分で終了した。書類を見つけるまでに多少時間がかかったが、依頼を受けてから2時間後に到着した警邏隊にリストと盗賊共を引き渡した。

失せ物として依頼が出されていた物の多くもその場所の保管庫にあった。

警邏隊が各宿に乗り込んだのは更に1時間後の事だった。

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