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ギレイの旅  作者: 千夜
3章
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武術大会4

 獅子は駆ける。いつもと同じように。

違うのはその一歩の大きさ。蹴りだす足の後ろに爆発が起こるような瞬発力。それを獅子は使ったことがない。なのに、知っている。

(ああ、これが親父の速さだ)

走りながら獅子は思う。父のように数十mを詰める力はないが、それでもこれだとわかる。

拳に宿る力が違う。地面を切り裂く鋭い一撃。

何故かなど獅子自身にもわからない。突然にいつもの攻撃がいつものものでなくなった。

なのに、何であるかをわかっている。使えば使うほどに体になじむ。


 目の前に立つのは歴戦の戦士。最強と言われる魔獣を倒す猛者。

その男の戦いの中に、確かに魔獣が見える。牙をむき、爪を立てる巨大な獣。男の拳は見たことのないその魔獣を砕く。

(なんなんだ、これは)

戦う相手が皆、その戦い方を教えてくれているようで。

本当にわからない。だが、それを使えと。強くなれると獅子の闘気が呼応する。

意識を高め、集中していく獅子の闘気が膨れ上がる。


 ナイゼルの目にはそれが巨大な黒い獣に変わっていくように見えた。

また、数mの距離をないものとして黒い少年がナイゼルに迫る。

「うおおおおっ」

雄たけびを上げ、ナイゼルは自分の体に当たる直前に獅子の腕を掴む。岩をも砕くその豪腕をもって力いっぱいに両の腕に圧力をかける。

めりめりと言いそうなその細い腕がびくともしない。

目の前にあるその目を見れば……。


 ナイゼルの脳裏に過酷な戦いの記憶が噴き出した。全てを憎み打ち倒してきたダークレオンという最も恐ろしい魔獣。

闇のように黒いたてがみ、牙をむき出す獰猛な顔、理性を持たない黒い瞳。

「うをおおおっ!」

ナイゼルは掴んでいた腕を関節と逆の方へ勢いよく折り曲げる。

近くにいてはいけない。これは、獣だ。本能が警鐘を鳴らす。

だが、その腕は曲がらない。代わりに、がら空きだったナイゼルの腹に鋭い蹴りが炸裂する。

その勢いでナイゼルの体が吹き飛ぶ。2mを超す巨体がいとも簡単に闘技場の外の壁へと撃ち出された。


「勝負あり!勝者、リョウ・シシクラ!!」

審判が声を上げる。

キャーッ!!!

「ワアーッ!!」という、歓声より先に空気を切り裂くような高音が響き渡った。

「リョウクーン!」

「かっこいーっ!」

黄色い声援が飛び交う。

儀礼はその中に宿の娘がいるのを見つけた。

「じゃ、拓ちゃん。僕先に帰ってるから獅子達によろしく」

拓に告げると儀礼は車まで光の剣を取りに行こうと思う。なくてもあの強さだ、問題ない気がしてきたが。

愛華の周りに死体が転がるのは遠慮したい。

(対象が変わったかな)

宿の娘がまだ獅子を応援しているのを見て、ほんの少し安堵の息を吐き儀礼は混み合う前に会場の出口を後にした。


「了様っ!」

闘技場の端に、いつの間にか利香が立っていた。

「利香!」

驚いてる獅子。

「了様、優勝おめでとうございます! さすが了様ですっ」

嬉しそうに利香が獅子に抱きつく。

「そちらは、妹さんですか?」

司会者が戸惑ったように聞いている。勝者にインタビューの予定だったのだろう。

「許婚です」

と獅子が答えれば、一時会場に悲鳴のようなものが上がる。

首を傾げる獅子と利香。

聞いてがっかりのにわかファンの娘達だった。

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