表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギレイの旅  作者: 千夜
3章
96/561

武術大会3

 そして、決勝。

「リョウクーン!!」

と、会場に黄色い声援が沸き起こる。

Bランクながら勝ち残る黒髪黒瞳の少年は十分に少女達の興味を引く容姿をしていた。

そして、その軽快な動きと、そうは見えない腕から繰り出される剛力。予選では次々と自分より大きな男達を沈めていた。


「かつて、ドルエドの騎士として歴史に名を残したシエンの戦士がドルエド最大規模のこの武術大会に名乗りを上げた! その名はリョウ・シシクラっ! 16歳にしてBランクの彼がこの決勝の舞台に立ったぁ!」

審査員が高らかに紹介すれば、会場はさらなる盛り上がりを見せる。

「対するは、昨年の優勝者。今大会一番の優勝候補っ! 豪腕にして神速っ! 凶悪強大な魔獣たちと素手で戦う男、ナイゼル・ガーンっ! 予選からここまで圧倒的な強さを見せてくれましたっ! まさに、王者と挑戦者の戦いとなった!」

呼ばれて腕を上げたのは、2mはあろうかという大きな男。みるからに筋骨たくましいがこの武術大会は力自慢ではない。技も十分に使えると言うことだろう。


 獅子が、会場の誰かに向かって腕を回した。見ている他の者にはただの準備運動に見えただろう。

儀礼はその方向を目を凝らして探す。

「了様ーっ!」

見つけた。声の限りに叫ぶ利香の姿。

「よく見えたなぁ」

儀礼は小さく笑いを漏らし、その方向へと歩いていった。

側まで来た時、利香の隣りに座った男が利香のかばんに手を伸ばす。

儀礼は服のフードを目深く被ると、白衣の袖を腕にかぶせる。

 ダンッ

儀礼の腕を揺らした小さな音は会場の声援にかき消された。利香の隣りで男が倒れるように眠りにつく。

利香は不思議そうに男を見たが、気にしないことにしたらしく、獅子の応援に戻る。

それを見ながら儀礼は、茶色い外套のフードを目深く被る怪しげな男の隣りに座った。


「あんな無防備なお嬢さんを一人にしないでくださいよ」

「じゃぁ、お前が行けばいいだろ。俺が隣りにいたら利香は了を思い切り応援しにくいだろうが」

儀礼が言えば、フードの下から拓が言い返す。

「いや、いつも十分してると思う。それに、ここの方が利香ちゃんが良く見えるし♪」

嬉しそうに儀礼が言う。

「不審者はどこかへ行けっ」

「冗談。冗談だから凄まないでよ。守りやすいって意味。どうもこの町おかしいから、なるべく早く帰った方がいい。特に、失せ物には十分注意して」

獅子を精一杯に応援する利香を見ながら、儀礼は言う。

その隣りでいびきを立てる男の荷物に、視線を送る通行人が幾人か。みなが決勝戦に夢中になる中うろつく者は目立つ。


 審判が試合開始を叫んだ。

「お前はこの試合、どっちが勝つと思う?」

拓がどうでもいいことのように聞く。この規模の大会ならば、優勝でも、準優勝でも十分な名誉だ。

「獅子」

迷う様子もなく儀礼は即答した。

「そんなにはっきり言っていいのか? 相手は『獅子魔獣の狩人』だぞ」

「『黒獅子』と『ダークレオハンター』ね。ほんと笑える対戦」

面白くもなさそうに儀礼は言う。


 『狩人』はその魔物や魔獣を最も多く倒した者に与えられる。

獅子魔獣ダークレオンはライオン型で巨大なAランク魔獣だ。魔獣の中では最強とも言われている。

素手でダークレオンを倒したならナイゼルという男、相当の腕前だ。

「なんかさ、もう。武器持ってない相手に獅子が負ける気がしないんだ」

「武器って、了だって普段光の剣使ってんだろ。素手なら不利なんじゃないのか」

儀礼は自分の足にひじをつき低い頬杖をつく。

「やっぱり光の剣が特殊なのかな……。獅子がもともと強かったのかもしれないけど。あれが剣の守護者なんだ」

「意味がわからん」

拓は開くように足を伸ばす。その足が儀礼の足に当たり、ひじがすべり落ちる。

睨むように見返すが、拓は無視している。

「っ。……光るんだよ、離れてても。獅子が闘気を纏えば剣が呼応する。獅子に足りない経験を剣の記憶が補っている気がするんだ」

「それって、大会規約に違反しないのか?」

少し悩んで拓が聞く。

「しないね。魔力を使っているわけでも、力を増しているわけでもない。剣の声を獅子が聞いてるだけ」

真剣な表情で儀礼は答える。古代の力は本当に不思議なことを起こす。


「剣はどこに置いてんだよ。失せ物注意なんだろ」

「世界一安全なところ。愛華が守ってる」

にっこりと儀礼は笑う。

「それは、近付いた奴はご愁傷様だな」

「多分、死なないで済むと思うけどね」

笑顔でさらっと恐ろしいことを言った。


 ナイゼルが、太い腕を振り回す。観客席にまで音が聞こえてきそうなほど力強い振りだ。

それを、獅子は気負った様子もなくかわしていく。

様子を見ているようにも見える。

力強く腕を振り、獅子が避けて、大きな音をたてナイゼルの拳が闘技場の床を砕く。

その一振りで闘技場に直径1mのクレーターが出来上がる。

あっという間に闘技場はまともな形でなくなった。


「俺はここだぞ。どこを狙ってる」

笑うように口の端を上げて獅子が言う。

「身軽なだけが取り柄か、小僧?」

疲れた様子も見えないナイゼル。だが、その額に汗が浮いている。

(なぜ当たらない……)

ナイゼルの感覚では、確かにこの少年を捉えている。

小手調べの速度ではあるが、予選や準決勝を見た限りではこれで、かすりもしないのはおかしい。

準決勝でもこの少年が手を抜いているようには見えなかった。


「じゃぁ、こっちからも行くか」

楽しそうに、にやりと笑い、獅子が地面を蹴って前へと進む。

瞬時に、数mの距離が詰められた。

「なんっ」

ナイゼルは咄嗟に腕を出しガードする。その腕に、鋭い衝撃。

殴られたはずのその腕は、鋭いもので切り裂かれたかのように出血している。

もう一度、そのまま拳が来るのを今度は逆の腕で受け止める。先ほどよりも硬度を強化するよう意識して。

ダンッ

当たったその腕に、確かな衝撃があった。

ナイゼルの攻撃とは違う。広く力強いものではない。では何故、こうも見事に傷を負っている。

その傷をナイゼルは見たことがあった。幾度も戦った憎き自分の宿敵。その牙を穿たれた時に同じように深い傷を負った。

獅子の次の攻撃をナイゼルは後方に跳んでかわした。

空振ったその拳は地面に丸い穴を開ける。ドリルで削ったような細く深い穴を。

「お前、なんだその攻撃は。見たことがない」

大会の決勝戦であることも忘れ、ナイゼルは問いかける。

「見たことがない? そんなはずはない。お前は戦ったはずだ。俺がまだ見たことのないその魔獣と」

獅子は自分の拳を見ながら、その問いかけに答える。確かめてでもいるかのように。


 魔獣の牙。今、食らったナイゼル自身が思い浮かべたはずだった。

「お前、本当にBランクか?」

ナイゼルの言葉に少年が笑う。

「ああ、悪い。笑うつもりはなかったんだ。ただ、半年前にも言われたなって。お前本当にDランクかって。あれも剣術大会の決勝だったなって思ってな」

怒ったナイゼルに獅子は慌てて言う。

「半年前にDランクだと」

たった半年でランクを二つも上げるなど容易ではない。


 一瞬で間をつめ、打ち込んでくる獅子に、ナイゼルはかわしながら隙を見る。

準決勝で見たときには、まだ余裕があった。余裕を持って勝てるはずだった。

予選の時は?

……相手にもしていなかった。Bランクだぞ、勝ち残るわけがないと思っていたほどだ。いつ、成長したというのだ。

少年の一歩がひどく大きい。まるで飛ぶように闘技場内を駆ける。

襲い来る一撃は魔獣の爪あとのごとく地面を引き裂く。

その一歩、一撃をまるで確かめているように少年は動く。そう、初めから本気ではなかったのではないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ