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ギレイの旅  作者: 千夜
3章
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氷の谷9

 管理局で儀礼は荷物をまとめる。

 対策本部から本格的な機材が届いたため、儀礼の持っていた機器類は返却されていた。

 もうこれで、儀礼が氷の谷でやる仕事は終わった。

 儀礼は手伝ってくれた多くの者にも感謝のメッセージを送った。

 儀礼の呼びかけにすぐに応えてくれたイシーリァやウィンリード、アンなどの親切な者達。来なくても良かったが、実際助けとなったエーダ。

 今も熱心に作業を続けている研究者達。本当は全員に会って感謝を伝えたいが、その時間が惜しい。

 まだ多くのやることが残っているが、それは儀礼でなくても構わない。専門の研究者達が喜んでやってくれるだろう。まさしく、未知の解明が格段に進むチャンスなのだ。


 儀礼と同じように獅子が荷物をまとめている。

「いいの?」

 儀礼が聞く。

「忘れたのか? まだ俺は追われる身だぞ」

 獅子が背中の剣を示す。利香が、少し寂しそうにそれを眺めていた。

「英、利香ちゃん達を頼むね」

 儀礼が言えば、床に止まっていた護衛機が返事をするようにランプを光らせ、一瞬浮き上がった。

 それを見て儀礼は微笑む。


 拓は三人の子守り客の相手をしている。彼らの迎えが来るまで、この部屋は借りたままにしておく。

「あれだけ暴れてまだ足りないんだ」

 荷物を纏めきった獅子に引きつった笑みを向ける。獅子が大怪我をしてたのは未明のこと。まだ半日程しか経っていない。

「お前が無茶ばっかするからな」

 まるで、儀礼が悪いように獅子は言う。

「僕、何かしたっけ……?」

 片していた手を止めて儀礼は考える。思い当たることがいくつかあるので忘れることにした。

「そんな、逃げるみたいに慌てて。またなんかやらかしたんじゃないだろうな」

 飲み物を取りに来たらしい拓が言った。

「いや、別に。……仕事を人に押し付けてきただけ」

「お前なぁ、子供みたいにいいかげんなことすんなよ。ああ、子供だったか」

 いやみったらしく拓が笑う。きっと、応接室で楽しげに談笑する少女達はこんな奴だと知らないのだろう。


「三百人以上の人生の責任なんて、僕じゃ持てないよ。もっと、しっかりした人に預けてきた」

 落ち込むように目を伏せ、深く考えるように儀礼は言った。地下に眠っていたあの人たちの人生は楽なものではないだろう。

 儀礼にできることはSランクという権力を振りかざして、その安全を宣言するだけ。儀礼自身が個人の助けになれることは少ない。

「でも無理やり返されそうだから急ぐ!」

 頭を上げた儀礼は荷造りを再開させた。


 古き時代の人たちをサウルへ送る直前、楽しそうに笑い出したその人たちを見て、研究者達は呆然とするほど驚いていた。

 その時、儀礼の顔を覗き込んだアーデスもAランクの研究者の顔をしていた。

『ちょっと解剖して調べてみたいなぁ』、みたいな空気を感じた。

 Aランクになって何年も経つような上位研究者はたまに忘れる。解剖すると生き物は死ぬのだ。

 とりあえず、『全権をアーデスに預ける』、ことにして儀礼は遺跡を飛び出してきた。

 儀礼は顔を青くしたまま荷物を車に押し込む。

 それを不思議そうに見ながら獅子も車に乗り込む。

 寂しそうに、利香が見送りに立つ。両手に花状態の拓は面倒そうに、空を見上げている。

 儀礼は手を振りながら車を発進させた。


 アーデスも責任者ならばしばらくは追ってこれないだろうが、追われたくない相手に追われることになるなんて。

「獅子のお父さんといい勝負だよ」

 氷の谷から離れ、泣きそうな声で儀礼はこぼした。

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