世間に問う(拓)
いじめっ子、拓。
俺は玉城拓。現在、ドルエドの王都にいる。
俺の故郷は遠く、国のはずれの方の小さな村だ。俺の家はそこで領主をしている。
なぜ俺が何週間もかかるこんな遠くまで来たかと言うと、妹の許婚が結婚を目前に家出同然に逃亡したからだ。それを追いかけて、妹が村を飛び出したので仕方なく迎えに来た。
まだ16才だし、強くなりたいと思うのは仕方ないかもしれないが……、問題はその連れの方だ。
昔から旅を計画していたそのチビすけは、村を出たとたんに何故か『Sランク(危険人物)』のレッテルを貼られ、世間で天才だ、神童だと噂されてるという。
故郷のシエンはドルエドの中で難しい立場にある。優遇されることもあれば、蔑まれることも。五百人余りの村人達の生活を守る事が玉城家の役目だと俺は思っている。
シエンが悪い意味で目をつけられる事は避けたい。
問題のチビすけが、通りの向こうからやってきた。本屋の袋を抱えて、楽しそうにぶつぶつと独り言を唱えている。不審者にしか見えない。
少し髪が伸びたらしい、明るい金色が跳ね回っている。
お前、それ寝癖だろう。しっかりしろよと、俺は思うのだが、気にしてないんだろうなぁ。
のんきなチビすけが、すぐそばまで歩いて来ていた。
色つきの眼鏡は、表情は隠し切れないが、瞳の色を不鮮明にしていた。
ちびすけは、―― 俺に目もくれず、通り過ぎようとしていた。
………………。重苦しい怒りが腹の内側にのしかかってきた。まかせるままに足を横へ踏み出す。
ベシャン!
小気味いい音とともに、少年が顔から地面に横たわる。腕を頭上にして紙袋を死守してるあたりは称賛すべきだろうか?
否、なんかむかつく。
ゲシ、と脇腹辺りに軽い蹴りを入れて注意をうながす。
「久しぶりに会った先輩に対して挨拶もなしで通りすぎようとは、礼儀がなってないなぁ」
低く出した声に、ビクリとチビスケが固まるのがわかった。
「なぁ、団居・儀礼」
顔の見える位置に移動して、名前を呼ぶ。儀礼は予想通り、顔を歪めて俺を見返して来た。
「いきなり何するんだよ、危ないだろ! しかもなんでここにいるんだよ」
目元に涙をためて睨み付けてるつもりなんだから、チビスケ以外の何者でもあるまい。
「利香と了を迎えに来たに決まってるだろ」
当然のことを聞く儀礼に呆れつつ、俺は丁寧に答えてやる。何せ相手はチビスケだし。
儀礼はぎこちない動作で立ち上がると服の砂をはたき落とした。
袋の中の本の無事を確かめ、ほっと息をついている。
(人が目の前にいるのに本の心配か?)
ざしざし、と足がうずくのを我慢して地面の土を掘る。それに反応してか、儀礼は再び緊張を表した。
「あぁ、お前はどうでもいいからとっととどこへでも行けよ」
しっしっと手を振ると、儀礼は口をへの字にして走り出す。
「自分で足止めたくせに、拓ちゃんのいじめっ子!」
うわ~ん!とか泣き叫びながら走り去っていく15才の少年。
あれを馬鹿と言わず何と言うのか、世間に問いたい。
―― それから数分後、明らかに怪しげなマントにマスクの男が俺に近づいて来た。
身のこなしが尋常ではなく、気配は感じさせないほど薄弱なのに、隙がないのがやたら気になった。
そして、俺にいらん事実を押し付けて行った。
そいつは儀礼の隠れ護衛(?)で、なんでも儀礼は不毛の大地『死の山』を浄化する爆弾を『爆発させた』そうだ。
しかも、さらに町一つ消せる爆弾を持っていると言う。
国の管理する土地を勝手に爆破したあげく、おどしとも言える爆弾の所持。よく『指名手配』されなかったものだ。
後ほど本人に確かめた所あっさり認めた。
しかも爆破のスイッチを押したのは未来の義弟(了)だと言う。
「もみ消しておけよ」
俺の言葉に儀礼は軽く笑った。
エリさん(儀礼の母)のような笑みに思わずドキリとした自分を呪う。
「当然」
言い放ったチビスケの瞳は神童どころか、俺に……悪神の光を宿して見せた。
2013/6/12、題名を修正しました。




