愛里8
事件から1ヶ月後。
儀礼は領主の屋敷を訪れる。ネネはあれから数えるほどしか屋敷におらず、禊とは一度も言葉を交わさなかったという。
領主である父親は朝と夜挨拶する以外はまるで感心がないようだった。もしくは「上の二人の方が優秀だった」なんて言い出す始末。
拓はある程度は愛里と3人で遊んだりしていたが、補いきれるものではない。
日に日に凍り付いていく禊の表情に儀礼は堪えられなかった。
(こんなにいいこなのに。愛しい子なのに)
「禊、君が嫌でなければうちにおいで。禊がいてくれると僕は助かるんだ」
儀礼は禊に手を差し出す。
今まで何度も、この小さな子に助けられた儀礼。主に桃色の悪魔からである。
不思議そうに首を傾げて禊は儀礼の手を取った。
「お父さまとお母さまに嫌われないかな?」
禊の言葉に儀礼は涙がにじむのを感じた。
(こんなに小さいんだぞ!)
「もっと仲良くなれるように一緒に考えよう。領主様もネネも、そう禊のお父さまもお母さまも禊のことが大好きなんだよ。
今は、その伝え方がわからないだけ」
儀礼は禊の頭を撫でる。
その日から、禊にはもう一つの家族が出来た。
二人の姉(愛里、ヒスイ)と妹。
それを誰よりも喜んだのは、やはり儀礼だった。
(救世主がうちにきた。これでもうネネも拓も怖くない)
嬉しさに涙する儀礼だった。
それから、儀礼と禊を生徒に白による魔法講座が開かれることとなった。それが祝禊という少年の始まり。
禊
僕が「お父さん」て呼んだ時、儀礼兄ちゃんは凄く嬉しそうに笑って、僕を抱き上げてくるくる回って、ぎゅって抱きしめてくれた。
すごくすごく嬉しそうな顔で、幸せだって笑ってくれたんだ。
でもね、お父さん。
きっとお父さんは気付いてないと思うけど、僕は。
あの時、お父さん以上に嬉しくて幸せな気持ちだったんだよ。
祈
子が欲しいと言われた。
必要なのだと。
並ぶもののない肩書きを持つ者から請われて、嫌な気はしなかったの。
でも、生まれた子は力が強すぎて制御できないと。
欲しいと言われた子を、育てられないと突き返された。
あの時の気持ちは、絶望に近かったと思う。
可哀想な赤ん坊。
母に利用されるために生まれて、父に要らないと言われて。
途方に暮れてシエンに戻った時に「可愛い同胞をありがとう」とシエンの領主に迎えられた。
父親がいないと告げれば、「君の、祝家の息子であればシエンの子供だ。私の子として引き受けよう」そう、言われた。
温かく迎えられるなんて、考えてもいなかった。
でも、領主の教育は厳しい。
私は世界を渡り歩くのをやめられなかった。
日々孤独で、知識に潰されていく小さな背中。
可哀想な子。
私の元に生まれなければ。
あの男の元に生まれなければ。
もし、儀礼の子供だったなら。
きっと、いいえ絶対に。大切に育てられる。
誰よりも幸せに。
幸せにしてくれる。
儀礼が父親だったら、あの子は幸せになれる。
幸せになって。
どうか幸せに。
いつも笑ってくれる、私の大好きな人の元で。
どうか幸せになって。
私の大切な、哀れな子。
読んでくださりありがとうございます。
この話で「愛里」は完結です。




