愛里2
前話愛里1の冒頭に愛里の容姿を追加しました。
拓は儀礼の服の襟首を掴むと、儀礼の身体を自分の頭より高くに持ち上げた。
ぐっ、と儀礼は苦しそうに息を詰まらせる。
「相変わらずみたいだな、お前の軟弱さは。話し合いに武器を持ち込むとは。それとも初めから襲撃に来たのか? 人に何か言う前に自分の態度を直したらどうだ」
ダン!
儀礼の体を壁へと叩き付け、拓はさらに腕に力を込める。
苦しそうにゆがむ顔で睨み付ける儀礼に、拓はふんと鼻で笑って返す。
男一人を持ち上げて、汗ひとつもかかない。次期領主としての仕事をこなしつつ、鍛錬も続けている拓には、戦士と呼ばれるシエン人の驚くべき力が備わっていた。
「ち、からで解決、しようとするのは、拓ちゃんの方だろっ」
締まる首元を解放しようと拓の手を外すために力を注ぎ、同時に背後の壁を利用して足を蹴り上げようと試みる儀礼だが、拓の腕は開かず、蹴り出す前の足を拓の膝が壁に押さえつけた。
「俺は話し合いをしようとしているが? 仕掛けてくるのはお前だろう」
ギリギリと力比べを続ける二人だったが、ふと拓は思った。
「持ち上げた重さは了(獅子)と同じくらいか」
世間で《黒獅子》と呼ばれる獅子は、拓よりも背が高く、筋肉でひきしまっている。儀礼に言わせれば「二人とも人間じゃねぇ」、らしいが。
と、それはさておき。
小柄な儀礼が獅子と同じ重さなわけがない。当然というか、儀礼はその差に値する分量の武器や防具、道具類を持っているわけだ。
エプロンをつけた姿はなんとも間抜けだが、その下の服には常時のごとくいくつもの道具を仕込んでいるのだろう。
重さマイナス金属片イコール……。
「軽すぎやしないか? お前体重はいくらだ」
ポツリとこぼれた様子で拓が聞くと、儀礼はムッと口を閉ざし、表情を険しくした。
腕をポケットに突っ込もうとするのを見て、拓は儀礼を床へとひきずり下ろした。
ケホッケホッ
衝撃を背中に受けて儀礼は軽く咳込む。
「お前は懲りないらしいな」
拓は儀礼の腕をねじりあげる。
「拓ちゃんのばあか。離せ、離せ! あと愛里に手を出すな!」
痛みを堪えながら儀礼は腕を解こうと、足をバタつかせてもがく。
逆上して武器類を出されても困る、と拓は儀礼の上衣を剥がす。どこに何が入ってるかわからないから、これが1番手っ取り早いのだ。
気にしてるようだからこのまま体重計に乗せてやるのもいいかもしれない。
拓はにやり、と悪魔的な笑みを浮かべていた。
鬼の首を取ったかの様な笑みの拓を見て、儀礼はさすがに慌てた。
ねじられる腕は痛いし、打ち付けた背中もずきずきする。睡眠薬や、痺れ薬も使えそうにない。考えながら、どこかで助けがこないかなんて希望的なことを願ってもいた。
そこへ、たまたま通り掛かったのは……残念ながら儀礼の助けではなかった。
「あら、楽しそうなことしてるじゃない。私も混ぜてくれる?」
妖しくも美しい笑みを浮かべて部屋に入って来たのは、桃色の髪と桃色の瞳が印象的な色気あふれる女性。祝祈だった。
通称ネネと呼ばれる元娼婦の祈は、訳あって領主の二番目の妻となっている。
一児の母でもあるネネだが、以前は儀礼に惚れたと言い、事あるごとにちょっかいを掛けていた。
(最悪だ)
儀礼は泣きたくなっていた。
「いいじゃない、ねぇ、あんな子供より私の方がいいってわからせてあげるわよ」
愉悦を混ぜてふふっと笑い、ネネは儀礼の頬に手を当てた。
「ちょっ、冗談! あんた領主の奥さんになったんだろ! 赤ん坊もいて」
「でも同じ位あなたのことも好きなのよ、儀礼」
真剣な顔でネネはそう言うと、瞳に悲哀を滲ませた。優しさと、愛おしさと、哀しみ。
儀礼がその瞳に息を呑んだ瞬間、拓とネネは視線を交わした。お互いに一瞬笑い合う。目的の合致したそれは、もちろん悪魔の微笑みだった。
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